時の祭

奈月沙耶

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第三話 天つ神 国つ神

7.自己紹介

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(どうしよう。これから)
 考えあぐねていたとき、亜衣の前に人が立った。目を上げるとそれはあの少年だった。

「叔父貴に訊いたみたいだな。なんて言ってた?」
「……知らないみたい。さやかさんのことも、写真の女の子のことも」
「それが本当なら、田辺昌宏ってのはよっぽどのボケだな」
 むっと亜衣は声を尖らせた。
「あなた誰? 私のこと知ってるならあなたも名前くらい教えてよ」
 亜衣がここまで怒りをあらわにするのはとても珍しいことである。

「高遠啓一郎。十九歳。フリーター」
 細切れに言って、少年は口元を微笑みの形に歪めた。
「授業フケてきたんだろ? 見かけのわりにやるじゃん」
 やるじゃんって言われても。怒ったような困ったようなしかめっつらのままで黙っていると、啓一郎は顎をしゃくってみせた。
「来いよ」

 返事をしかねて亜衣は黙ったままでいる。警戒されていると思ったのか啓一郎も困ったような表情になり、やや穏やかな口調になって言った。
「話してやるよ。写真のこととかさ」
 その声から何かしらの誠実さのようなものを感じて、亜衣はこくんと頷いた。



 啓一郎に連れていかれたのは、ビルの三階にあるやや大人向けのシックな色調の喫茶店だった。
「払ってやるから好きなもの頼め」
 亜衣はミルクティーを頼んだ。
「昼メシは? 食ったのか?」
 答えないでいると啓一郎はエビピラフとピザトーストをオーダーに付け加え、店員がそれを運んでくるとエビピラフを亜衣の方へ押してよこした。食欲はなかったが、亜衣は少しずつそれを口に運んだ。

「写真、今持ってるか?」
 亜衣は写真をテーブルの上に出す。啓一郎はしげしげ眺め入った。
「オレの親父は記者のはしくれでさ」
 唐突に彼が語りだしたので亜衣は両の手を膝の上に置いておとなしく耳を傾ける姿勢をとった。

「はしくれとも言えないような、しょぼくれた雑誌記者で。いろんな編集部をまわっちゃあ、稼ぎにもならない下手な文章を書き散らしていたらしい。それが十二年前」
 キーワードのようなその言葉を聞いて亜衣は少し緊張した。
「親父はナントカって村の取材に行ってくるってカメラマンとふたりで出かけていった。有名な祭だからって。けど本当は、親父の目的は祭の取材なんかじゃあなかった」
 ずっと後になってから知ったことなんだけど、と啓一郎は後を続けた。
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