時の祭

奈月沙耶

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第三話 天つ神 国つ神

1.お留守番

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 さやかが部屋から出てきたのは、司たちが出かけてから十分ほど後のことだった。
「みんな出かけたのね」
「はい。ここを中心に三方向へ距離を延ばしながら須佐殿の痕跡を探してみるそうです」
「それであなたがお留守番? というより、わたしのお守役かな」
「そんな」

 わたわたと手を振って君彦は笑顔でさやかに言った。
「朝ごはん食べるでしょう」
 居間のテーブルには一人分の食事の用意ができていた。
「あなたが作ったの?」
「はい。冷蔵庫の中のもの勝手に使っちゃいました」
 オムレツに温野菜にコンソメのスープ。くるみのパンは今朝買いに行ったのだろう。トースターで少し焼き色をつけてあった。床の上に正座して、さやかは手を合わせた。
「いただきます」

「あ、オムレツはね。デミグラスソースも作ったんです。ケチャップとどっちにしますか?」
 さやかは感心しながら訊いてみた。
「混ぜて食べたら美味しいかな?」
「さあ」
「んじゃ、やってみる」
 オムレツの中身はジャガイモだった。好い加減に火が通っている。
「お料理上手ね」
「この後も食事の支度ぼくがしますから。嫌いなものがあったら教えてくださいね」
「わたしは好き嫌いないから大丈夫」

 くるみパンをちぎってバターを塗りながらさやかは壁の時計を見上げた。午前八時三十分。一日の授業が始まる時刻だ。
 君彦は控えめに口を開いた。
「学校、行きたいんですか?」
 テーブルを挟んだ向かいに同じように床に座り込んでいる君彦を見て、さやかは頷いた。
「文化祭、楽しみだったのに」
「文化祭ですか。そうか、楽しみか」

 君彦の言葉に含むものを感じ、さやかはパンを呑み込んでから訊いた。
「文化祭がどうかしたの?」
「そういう学校行事を楽しみにできるのは、いいことだなって思って」
 さやかはブロッコリーをフォークで突き刺した。
「君彦っていくつ? 学年は?」
「十六です。高校一年生でした」
「うそ。中学生かと思った」
「よく言われます」
 君彦は頬を掻いた。

 トマトケチャップとデミグラスソースを即席で混ぜたものはあまり美味しくなかったが、さやかは自分で言いだした手前文句を言わずに黙って食べた。オムレツをつつきながら言葉を探していたさやかは、面倒になって単刀直入に君彦に尋ねた。

「君彦はどうして猿田彦になったの?」
 突然の質問に君彦はびっくりしたようだった。
「あなたはこれから、何十年も何百年も何千年もこのままなんだよ? 覚悟はできてるの?」
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