26 / 77
第二章 因縁
16.君彦
しおりを挟む
「ヒコちゃんなの?」
「はい」
明るく頷かれて踊子はびっくりしている。司とさやかもそれは同様だった。彼らの知る猿田彦は白髪の小柄な老人であったはずだ。
「いつの間に魂継(たまつぎ)なんてしたのよ。知らないわよ、あたしたち」
「困りますねえ、どうなってるんでしょう」
「立会は?」
踊子と智と司とが口々にまくしたてる。
「すみません。急なことだったので。ほんのひと月前のことなんです。立会は大国主殿が」
「大国?」
三人三様の表情で司たちは黙りこくった。さやかはひとり無表情に君彦を見ている。司は全員に座るように促した。
「自己紹介は必要だろうか?」
君彦は首を横に振った。
「いいえ。わかります」
「あ、わたしのことは智と呼んでくださいね」
生真面目に頷いて君彦はもう一度頭を下げた。
「みなさんを呼び集めておきながら、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」
「ねえねえ、ヒコちゃん」
昔からの呼び名を通して踊子が尋ねた。
「あんた出雲にいたの?」
君彦は今度は首を縦に振った。はずみでずり落ちてしまったメガネを押し上げながら彼は話し始めた。
「そもそも、猿田彦が巡回で出雲に行ったのは二か月前のことでした。既に事件は起きていて」
「何があったのよ、いったい」
とたんに君彦は口ごもった。それほど言いにくいことなのかと全員が身構える。
「それがですね。実は」
目を閉じて君彦は叫ぶように言った。
「須佐殿がいなくなったんです」
なんだ、というふうに踊子がソファにもたれる。
「アイツの脱走はいつものことでしょ。櫛名田が捕まえてくれたんでしょ?」
「いえ、あの、違うんです。今回は、完全に行方不明なんです!」
誰もが言葉をなくした。深い沈黙が流れる。いち早く言葉を取り戻したのは智だった。
「スサノヲが行方不明と、そう聞こえたのですが」
「そうです。須佐殿が行方不明になったんです。二か月前のことです」
「信じらんない」
踊子が顔を覆う。
「大国はなにやってたの? 監視役でしょ」
キツイ声に首を竦ませながら君彦は弁解した。
「ですから大国主殿は須佐殿を必死に探しておられて。でも」
「見つからないんだな」
司が指摘する。君彦はうなだれた。
「ああ、もう! いつもそうなのよ、あの優男は。女にモテることしか取り柄がないんだから」
「言いすぎです」
「ほんとのことでしょうっ」
踊子ににらまれ君彦は小さな体をますます小さくした。そんな彼に司が問いかける。
「はい」
明るく頷かれて踊子はびっくりしている。司とさやかもそれは同様だった。彼らの知る猿田彦は白髪の小柄な老人であったはずだ。
「いつの間に魂継(たまつぎ)なんてしたのよ。知らないわよ、あたしたち」
「困りますねえ、どうなってるんでしょう」
「立会は?」
踊子と智と司とが口々にまくしたてる。
「すみません。急なことだったので。ほんのひと月前のことなんです。立会は大国主殿が」
「大国?」
三人三様の表情で司たちは黙りこくった。さやかはひとり無表情に君彦を見ている。司は全員に座るように促した。
「自己紹介は必要だろうか?」
君彦は首を横に振った。
「いいえ。わかります」
「あ、わたしのことは智と呼んでくださいね」
生真面目に頷いて君彦はもう一度頭を下げた。
「みなさんを呼び集めておきながら、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」
「ねえねえ、ヒコちゃん」
昔からの呼び名を通して踊子が尋ねた。
「あんた出雲にいたの?」
君彦は今度は首を縦に振った。はずみでずり落ちてしまったメガネを押し上げながら彼は話し始めた。
「そもそも、猿田彦が巡回で出雲に行ったのは二か月前のことでした。既に事件は起きていて」
「何があったのよ、いったい」
とたんに君彦は口ごもった。それほど言いにくいことなのかと全員が身構える。
「それがですね。実は」
目を閉じて君彦は叫ぶように言った。
「須佐殿がいなくなったんです」
なんだ、というふうに踊子がソファにもたれる。
「アイツの脱走はいつものことでしょ。櫛名田が捕まえてくれたんでしょ?」
「いえ、あの、違うんです。今回は、完全に行方不明なんです!」
誰もが言葉をなくした。深い沈黙が流れる。いち早く言葉を取り戻したのは智だった。
「スサノヲが行方不明と、そう聞こえたのですが」
「そうです。須佐殿が行方不明になったんです。二か月前のことです」
「信じらんない」
踊子が顔を覆う。
「大国はなにやってたの? 監視役でしょ」
キツイ声に首を竦ませながら君彦は弁解した。
「ですから大国主殿は須佐殿を必死に探しておられて。でも」
「見つからないんだな」
司が指摘する。君彦はうなだれた。
「ああ、もう! いつもそうなのよ、あの優男は。女にモテることしか取り柄がないんだから」
「言いすぎです」
「ほんとのことでしょうっ」
踊子ににらまれ君彦は小さな体をますます小さくした。そんな彼に司が問いかける。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる