時の祭

奈月沙耶

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第二章 因縁

15.執着

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「なんでいきなりそういうことになるのよ?」
 それまで黙っていた踊子が後ろからさやかの肩を抱いて司を睨みつけた。さやかの手を放して司は厳しい顔になる。
「事情が変わったんだ」
「何がどうしたのよ? それって中谷亜衣って娘のことでしょ?」
 表情を険しくして司は踊子を見上げた。
「なぜ知ってる」

 踊子は口に手を当てたが遅かった。背後で智が手で顔を覆っている。逆に開き直った踊子はふんっと胸をそらした。
「あんまりヒマだったから学校を見に行ったのよ。悪い? それで会ったのよ、亜衣ってコに。いいじゃない別に」

 呆れたように額を押え、さやかに目を向けて司は怒った。
「あれほど近づくなと言っただろう」
「そんなこと言ったって、隣のクラスで共通の友だちだっているんだもの。まるっきり無視するわけにはいかないじゃない」
 負けじと怒鳴り返してさやかはぎゅっとくちびるを引き結んだ。お互い一歩も引かずに睨み合う。

 来客を告げるチャイムが鳴った。誰も動く気配がないから仕方なく智が玄関に向かった。

「なんなのよ。あの娘がなんだっていうのよ」
 じれたように踊子が繰り返す。司はさやかの顔から眼を逸らさないまま早口に答えた。
「こいつが執着して仕方ないんだ」
 踊子はちょっと身を引いてさやかを見た。
「何がいけないの?」
「良し悪しの問題じゃない。度合いのことを言ってるんだ」

 司は押し殺した声音で厳しく言った。
「前回は良かった。あの子は何もわからない幼子だったし、おまえにも身を引く分別があった。だが今は違う。幼子を相手にするようにはいかないんだぞ」
「あの子はなにも覚えてないわよ。あんなに小さかったのだもの」
 そう言うさやかの口調は先程に比べ力に欠けていた。

「そうだな。彼女はそうかもしれない。だが昌宏の方はどうだ?」
「……」
「今日一日一緒にすごして何度も気になるような素振りを見せていた。俺が相手でもそうなんだ」
「でも……」
 力なくさやかが反駁しようとするが言葉が続かない。

「あのう、お取込み中申し訳ないのですが」
 智の声が割って入ってきた。
「お待ちかねの人がお見えになりましたよ」
 智の傍らには詰襟の学生服を着た少年が立っていた。幼さの残る小さな顔に丸いメガネをかけている。体も小柄で中学生くらいにしか見えない。

 司たちの視線が集まるのを待ち、彼は真面目にお辞儀をした。
「はじめまして。〈猿田彦〉の倉橋君彦と申します」
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