時の祭

奈月沙耶

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第二章 因縁

10.視線

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 亜衣はふたりに「こんにちは」ともう一度丁寧にお辞儀をした。そんな少女に好感を持ったのか、智は笑みを深くした。
「この子は、わたしたちにとっても妹のようなものですから、どうか仲良くしてやってくださいね」
「はい。こちらこそ」
 頬を紅潮させて亜衣が頷く。
 制服の胸元を押えてさやかは微かに顔を歪めた。

「……わたし、帰るから。みんなによろしくね」
「うん。気をつけてね」
 さやかの学生鞄を差し出しながら亜衣はまだ少し心配そうだ。
「ありがとう。それじゃあ」
 いつものように「また明日ね」と付け加えることはできなかった。今夜、司にあの話をすれば、もう学校には行くなと言われるだろうから。

 昇降口にまわった後、校門で智たちと合流した。
「こんな時間だというのに活気がありますね」
「文化祭の準備で忙しいの」
 そっけなく言って校門を出る。帰路を辿りながらさやかは踊子に尋ねた。

「あの打掛のことだけど」
「あの女の子の背中に張り付いて離れなくてさ」
「もう何もないのね?」
「また何年かすれば念が籠るでしょうけど」
 踊子の言葉に頷いてから、さやかはじろりとふたりを見上げた。

「ところでなんでまた、ふたりそろってあんなとこにいたのよ?」
 ぽりぽりと智は頬をかき、踊子はくるりと瞳を上向けている。
「どうせ面白がって見に来たんでしょう?」
「そ、それはですね」
 智がしどろもどろに言い訳を始めた。
「あなたがあんまり楽しそうな様子だからどんなところかなあ、と。ねえ。気になるじゃないですか。親心というものですよ」
 何がオヤゴコロ、とさやかは苦笑いした。

「ふたりで出かけてたの?」
「マンションの近くに美味しい甘味処があるの。知ってる?」
「どこ?」
 本当にふつうの従姉妹同士のようにさやかと踊子が歩き出す。
 少し離れて歩を進めていた智は、背後からの視線を感じて肩越しに少し振り返ってみた。

 酒屋の前の郵便ポストに身を隠すようにして、ひとりの少年がこちらをじっと見ていた。正確にはさやかを、である。
 色白でまあまあ整った顔立ちをしている。昨夜この場所でさやかの顔を見て逃げていった少年だ。智は不審な顔をする。さやかも彼に気がついているようだ。

(誰なんだろう)
 考えてみたけどわからない。さやかは背後を振り返る。少年はびくりとしてまた逃げていってしまった。
「なあに、あれ?」
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