時の祭

奈月沙耶

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第二章 因縁

3.好奇心

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「古代のロマンですね」
「ええ。神話は間違っても歴史を述べたものではないけど歴史的事実を反映した物語です。突拍子のない絵空事なわけではない。それを紐解くことは古代に生きた人々の息吹を読み取ることです」
 目を輝かせて昌宏は言った。
「とても興味深いです」

「……湾の入り江の方では水軍の本拠地らしい城跡の調査が始まってます。戦国時代初期に築かれたものですが、ご覧になりますか?」
「是非」
 彼の好奇心のアンテナは四方八方に巡らされているらしい。

「突然ふらふらやって来てやたらと史跡を見たがって、おかしな奴だと思ってるだろう」
 クルマで今度は国道を海側へと折れたとき、砕けた口調になって昌宏が言った。
「姪が、実家を離れて恵和女子学院に通っていてね。市民学校の体験スクールで土器のかけらを掘り起こしただの、城跡の発掘現場を見てきただの手紙をよこすものだから、来ずにはいられなくなってしまって」
「姪御さんですか」
「うん。僕の姉と、さっき話した国文学者の義兄との子でね。興味があるんだろうな、こういうことに」
「そうですか……」




 商店街の中で老舗らしい店構えの甘味処を見つけ、踊子はさっそく智を引き連れて客席へと入っていった。
「ああ、やっぱりあんこって美味しい。海外だと小豆の味が懐かしくなっちゃって」
「食文化の違いにはわたしも苦労しましたよ」
 しみじみと智も相槌を打つ。ぱっきりと派手な身なりをした美女と、それとは正反対に茫洋とした印象を与える面持ちの青年とが、テーブル席がみっつしかないこじんまりした店内で向かい合ってぜんざいを啜っている図はどこかおかしなものがあった。

「そうそう。あなたにお聞きしたいことがあるのですよ」
 芋ようかんをつつきながら智がのんびりと切り出す。その口調にかすかに含むところを感じ、抹茶白玉をかき回していた踊子は箸を止めて目を上げた。

「なあに?」
「あなた、この国を出るとき司を誘ったそうですね」
「一緒に行こうとは言ってないわ。あんたも国を出たらって誘ったんだから」
「同じことです」
 楊枝を置いて、智はテーブルの上で手を組んだ。

「さやかから聞いたの?」
「司は行きたかったんだろうが自分を心配して残ったようだった、そんなふうに言ってました」
「そう」
 踊子も箸を置いて頬杖をついた。何やら考え深げな顔をしている。
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