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第一章 来訪者たち
8.打掛
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机の脇に鞄をかけて周りを見る。登校してきた生徒たちが朝礼までの間にさっそく小物づくりの作業を始めていた。
「展示の部とステージの部と、それぞれ投票で一位になると賞品をもらえるからね。今年は何かなあ。あ、そういえばねえ、あたし、おもしろい話聞いちゃった」
ぱっと目を輝かせて美乃里はさやかに顔を寄せてくる。微笑ましくて、にこにこと美乃里の話に耳を傾けたさやかは、だがその内容に眉をひそめた。
「高等部でね、学院七不思議体験ツアーっていうのをやるんですって。おもしろそうじゃない?」
「七不思議」
「あるみたいよ。あたしは全部は知らないけど〈被服室の踊る打掛〉とか〈放送室の花子さん〉とか。そういう場所をね、案内してまわるみたい、ちょっと仕掛けをしてね。毛色の変わったお化け屋敷って感じでおもしろそうだと思うんだけど」
わくわくと話していた美乃里は、さやかが冴えない顔をしているのに気づいて首を傾げた。
「わたしは……そういうのは、どうかと思うな。百物語みたいに、そういう話題や行動が良くないものを呼び込んでしまうってことがあるから。まして古い学校のことだもの。万が一ってことがあるかも」
「やだ、さやかさんたら。ただの出し物だよ。そんなこと言ってたら世の中のお化け屋敷はどうなるの? 何かなんてあるわけないじゃない」
あんまり美乃里がけろっとしているものだから、さやかはそれ以上言うのをやめた。
そう。何しろ古い学校のことなのだ。特に〈被服室の踊る打掛〉とやら。それはさやかも目にしたことがある。司や智ほどの鑑定眼はないし踊子のように衣裳にこだわりもないので断言はできないが、室町時代のものだと思う。文字通り良くないモノが憑いていた。
打掛は女の装束。女の念が籠りやすいもの。それが年若い少女たちの集まる学校の被服室に展示されているのだから、何もない方が不自然だろう。
良くないモノには違いないが放っておいていいと思ったから司にも話していない。いちいち細かいことを気にしてなどいられない。
くちびるに指を当てながらさやかは教室中を見渡す。みんな楽しそうに祭の準備をしている。ひと騒動起ころうとそれは祭の余興というものだ。
彼女はとても文化祭を楽しみにしていたので、ここは敢えて見逃してしまうことにした。
「展示の部とステージの部と、それぞれ投票で一位になると賞品をもらえるからね。今年は何かなあ。あ、そういえばねえ、あたし、おもしろい話聞いちゃった」
ぱっと目を輝かせて美乃里はさやかに顔を寄せてくる。微笑ましくて、にこにこと美乃里の話に耳を傾けたさやかは、だがその内容に眉をひそめた。
「高等部でね、学院七不思議体験ツアーっていうのをやるんですって。おもしろそうじゃない?」
「七不思議」
「あるみたいよ。あたしは全部は知らないけど〈被服室の踊る打掛〉とか〈放送室の花子さん〉とか。そういう場所をね、案内してまわるみたい、ちょっと仕掛けをしてね。毛色の変わったお化け屋敷って感じでおもしろそうだと思うんだけど」
わくわくと話していた美乃里は、さやかが冴えない顔をしているのに気づいて首を傾げた。
「わたしは……そういうのは、どうかと思うな。百物語みたいに、そういう話題や行動が良くないものを呼び込んでしまうってことがあるから。まして古い学校のことだもの。万が一ってことがあるかも」
「やだ、さやかさんたら。ただの出し物だよ。そんなこと言ってたら世の中のお化け屋敷はどうなるの? 何かなんてあるわけないじゃない」
あんまり美乃里がけろっとしているものだから、さやかはそれ以上言うのをやめた。
そう。何しろ古い学校のことなのだ。特に〈被服室の踊る打掛〉とやら。それはさやかも目にしたことがある。司や智ほどの鑑定眼はないし踊子のように衣裳にこだわりもないので断言はできないが、室町時代のものだと思う。文字通り良くないモノが憑いていた。
打掛は女の装束。女の念が籠りやすいもの。それが年若い少女たちの集まる学校の被服室に展示されているのだから、何もない方が不自然だろう。
良くないモノには違いないが放っておいていいと思ったから司にも話していない。いちいち細かいことを気にしてなどいられない。
くちびるに指を当てながらさやかは教室中を見渡す。みんな楽しそうに祭の準備をしている。ひと騒動起ころうとそれは祭の余興というものだ。
彼女はとても文化祭を楽しみにしていたので、ここは敢えて見逃してしまうことにした。
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