時の祭

奈月沙耶

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第一章 来訪者たち

5.見知らぬ少年

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 ――もしあなたと私がまた出会うことがあって、そのときあなたが今と変わらない心の持ち主であったなら。そしたらそのときは、私はあなたの願いをなんでもかなえてあげる。

 さやかと離れたくなくて泣いている亜衣に約束したのだ。

(約束、したのに)
 さやかは軽くくちびるを噛む。視線を感じたのはそのときだった。恐怖に近いくらいの驚愕に満ちた気配。

 振り返ったさやかは、そこに見知らぬ少年の姿を見た。さやかより少し年上な感じ。着古したジーンズを着ている。色白で端正な顔立ちをしているが取り立てて目を引くほどではないし記憶にある顔でもない。
「誰?」
 小さな声で尋ねると、彼はびくりと肩を震わせものも言わずに背を向けた。少年はあっと言う間に逃げていってしまった。

 しばし呆然としていると、
「おやおや。お安くないですねえ、あなたも」
 とんでもなくカン違いな声をかけられ、さやかはそちらを振り向く。
「…………」
 今度は知った顔だった。そう。知りすぎてはいるが、あんまり久しぶりに会うものだからとっさにそこにいることが信じられない。

「あんた……」
「嫌ですね。わたしを忘れたんですか?」
 忘れるわけないだろう。茫洋としすぎてまったく人の印象に残らないので本人はとっても重宝しているその顔を。

「兼知! あんた、ずうっとなんの音沙汰もなかったくせに!」
「大きな声出さないでください」
 さやかはかまわず外見は二十歳をいくらかすぎた程度にしか見えない青年へと詰め寄った。
「帰ってきたんだったらさっさと消息くらいよこしなさいよ」
「すみません。この国に戻ったのはほんの数日前のことなんですよ」
「じゃあ今までずっと外国にいたの?」
「ええ、まあ。方々を旅してきたんで」

 さやかは拍子抜けして肩を落とした。
「猿田彦に呼ばれて、それで帰ってきたの?」
「まあ、そんなところです」
「ふうん」
 くちびるを引き結んで、さやかは車道のクルマの流れの方へと視線をやっている。

「まあ、いいわ。行きましょう」
「どこへ?」
「うちへよ。司に会うでしょう」
 既に歩きだしながらさやかが答えると智は慌てて彼女の後に付き従った。

「司は市の郷土資料館に通ってるの。蔵書整理のアルバイトですって」
「そちらへは踊子が行ってるはずですよ」
 ちょっと息を止めてから、さやかはつぶやいた。
「踊子も来てるの」
「ええ。なんでも、あの人もこの国を出ていたそうですね」
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