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第一章 来訪者たち
3.転校生
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「おかえりなさい。美乃里さんは帰ったの?」
「うん。さやかさんに悪いって言ってたんだけど、もう遅いからって」
「よかった」
頷いてさやかは微笑んだ。抱えていた荷物を机の上におろしていた亜衣は、その笑顔に一瞬見とれてしまった。
「さやかさんも帰ってよ。もう暗いもの」
「まだ平気。暗いのなんか怖くないし」
「でも、お兄さんが心配するでしょう」
由利子が気遣って言い募ると、さやかはちょっと顔をしかめて手を振った。
「あの人のが帰り遅いし、大体心配なんかしないよ」
「そう? だって、すごく優しそうだから」
「ないない。そんなことない。人にはいい顔してるだけ! 実はすっごく性格悪いんだから」
「それならいいけど」
由利子は目を丸くして買ってきた品物を取り出し始めた。
高等部の方では部活単位で出し物をするが、中等部ではクラスごとに担当する科目を決めてそれぞれの教室に展示の準備を行う。
美乃里と亜衣のクラスと由利子とさやかのクラスとは、合同で家庭科の授業で制作したものを展示発表することになっていた。
「明日から班ごとに飾り付けの準備をしてもらうから……。あとは編み機の実践とか、お菓子の販売のこととか話し合わないと」
頭の中を整理するように由利子が言うのを聞いて、さやかがくすりと笑みをもらした。
「なんか楽しいね。わくわくしちゃう」
「うちの文化祭は高等部と合同でしょう。だからわりと規模が大きいの。お客さんもたくさん来るから賑やかになるよ」
「そう。楽しみだな」
さやかがまた微笑んだとき黒板の上のスピーカーから声が流れた。
『校内に残っている生徒! 片づけをしていい加減に下校しなさい』
改めて時計を見上げると時刻はすっかり夕食時のものになっていた。慌てて帰り支度をして教室を出る。
「ほんとに遅くなっちゃった。ごめんね、さやかさん」
「もう。何度も言いすぎ」
目の前でさやかとじゃれ合っている由利子を見て亜衣は羨ましいと思ってしまう。
加倉さやかが由利子のクラスに転校してきたのは一学期の終わりのことだった。時期外れの転校生ということで注目を集めた彼女は、あっという間に生徒たちの人気者になった。
誰もが認める美少女なのだがさばさばした性格で飾ることをしない。誰に対しても公平な態度は見ていて気持ちが良かったし、尊敬すら感じさせた。
「うん。さやかさんに悪いって言ってたんだけど、もう遅いからって」
「よかった」
頷いてさやかは微笑んだ。抱えていた荷物を机の上におろしていた亜衣は、その笑顔に一瞬見とれてしまった。
「さやかさんも帰ってよ。もう暗いもの」
「まだ平気。暗いのなんか怖くないし」
「でも、お兄さんが心配するでしょう」
由利子が気遣って言い募ると、さやかはちょっと顔をしかめて手を振った。
「あの人のが帰り遅いし、大体心配なんかしないよ」
「そう? だって、すごく優しそうだから」
「ないない。そんなことない。人にはいい顔してるだけ! 実はすっごく性格悪いんだから」
「それならいいけど」
由利子は目を丸くして買ってきた品物を取り出し始めた。
高等部の方では部活単位で出し物をするが、中等部ではクラスごとに担当する科目を決めてそれぞれの教室に展示の準備を行う。
美乃里と亜衣のクラスと由利子とさやかのクラスとは、合同で家庭科の授業で制作したものを展示発表することになっていた。
「明日から班ごとに飾り付けの準備をしてもらうから……。あとは編み機の実践とか、お菓子の販売のこととか話し合わないと」
頭の中を整理するように由利子が言うのを聞いて、さやかがくすりと笑みをもらした。
「なんか楽しいね。わくわくしちゃう」
「うちの文化祭は高等部と合同でしょう。だからわりと規模が大きいの。お客さんもたくさん来るから賑やかになるよ」
「そう。楽しみだな」
さやかがまた微笑んだとき黒板の上のスピーカーから声が流れた。
『校内に残っている生徒! 片づけをしていい加減に下校しなさい』
改めて時計を見上げると時刻はすっかり夕食時のものになっていた。慌てて帰り支度をして教室を出る。
「ほんとに遅くなっちゃった。ごめんね、さやかさん」
「もう。何度も言いすぎ」
目の前でさやかとじゃれ合っている由利子を見て亜衣は羨ましいと思ってしまう。
加倉さやかが由利子のクラスに転校してきたのは一学期の終わりのことだった。時期外れの転校生ということで注目を集めた彼女は、あっという間に生徒たちの人気者になった。
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