290 / 324
第五十七話 小さな決心
57-2.初恋だって
しおりを挟む
森村家では襖を取り払って繋げた広間に宴席の準備ができていた。仏壇に新婦親子が手を合わせた後、その前でもう一度記念撮影。
それが終わると、どっと酒や料理が運ばれてきた。乾杯がすめば後は無礼講のようで皆が自由に食事を始めた。
少し肩の力を抜いた面持ちで、恵の母親が今日はありがとうと綾香に話しかけてくる。
それに応えて会話しながら綾香は広間の様子を観察する。酒や料理を運ぶ女性たちの中に美登利がいる。
ゆっくりゆっくり料理を口に運んでいると、やがて恵がお酌をしに回ってきた。
「少しならいいでしょ」
「うん」
せっかくだからとお猪口に清酒を注いでもらって口を付けてみたが、とても飲めそうになかった。軽く咽ていると、美登利が冷たいお水を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
素直にお礼を言って綾香は受け取る。そんな綾香の前で美登利と恵が談笑している。
どうして恵は平気なのだろう。昨夜寝る前に恵が話していたことを綾香は思い出す。
『拓己くんね、ちゃんと話してくれたんだ』
中川先輩が好きだったって。そう話した恵の顔は何かをやり遂げた者のようにすっきりと澄み切っていて、何故そんな眼ができるのかと綾香は不思議だった。
『初恋だって。初恋で、中川先輩じゃ、もうしょうがないよね』
肩で息をついて恵は笑った。何がしょうがないのか綾香にはわからない。
『わたしはそれでもいいんだ。もともとわかってたし』
一瞬ほろ苦いものを笑顔に滲ませて恵は綾香の瞳を覗き込んだ。
『でも、綾香ちゃんはわたしとは違うでしょう』
目をぱちぱちさせて、綾香は恵の目を見つめ返した。
『それなのにごめんね。大丈夫なんて言っちゃって。間違えちゃったんだ、わたし。綾香ちゃんもわたしと同じならいいのにって思ってたから』
静まった恵の瞳に、いつか見た坂野今日子の冷たい眼差しを思い出した。
――あなたの友だちはあなたと同じではないし、池崎くんも森村くんとは違う。間違えたら駄目ですよ。
『わたし……』
『綾香ちゃんはわたしとは違う。しょうがないなんて思えないでしょう』
『……』
『綾香ちゃんだけを見てくれる人じゃないとダメでしょう?』
それが終わると、どっと酒や料理が運ばれてきた。乾杯がすめば後は無礼講のようで皆が自由に食事を始めた。
少し肩の力を抜いた面持ちで、恵の母親が今日はありがとうと綾香に話しかけてくる。
それに応えて会話しながら綾香は広間の様子を観察する。酒や料理を運ぶ女性たちの中に美登利がいる。
ゆっくりゆっくり料理を口に運んでいると、やがて恵がお酌をしに回ってきた。
「少しならいいでしょ」
「うん」
せっかくだからとお猪口に清酒を注いでもらって口を付けてみたが、とても飲めそうになかった。軽く咽ていると、美登利が冷たいお水を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
素直にお礼を言って綾香は受け取る。そんな綾香の前で美登利と恵が談笑している。
どうして恵は平気なのだろう。昨夜寝る前に恵が話していたことを綾香は思い出す。
『拓己くんね、ちゃんと話してくれたんだ』
中川先輩が好きだったって。そう話した恵の顔は何かをやり遂げた者のようにすっきりと澄み切っていて、何故そんな眼ができるのかと綾香は不思議だった。
『初恋だって。初恋で、中川先輩じゃ、もうしょうがないよね』
肩で息をついて恵は笑った。何がしょうがないのか綾香にはわからない。
『わたしはそれでもいいんだ。もともとわかってたし』
一瞬ほろ苦いものを笑顔に滲ませて恵は綾香の瞳を覗き込んだ。
『でも、綾香ちゃんはわたしとは違うでしょう』
目をぱちぱちさせて、綾香は恵の目を見つめ返した。
『それなのにごめんね。大丈夫なんて言っちゃって。間違えちゃったんだ、わたし。綾香ちゃんもわたしと同じならいいのにって思ってたから』
静まった恵の瞳に、いつか見た坂野今日子の冷たい眼差しを思い出した。
――あなたの友だちはあなたと同じではないし、池崎くんも森村くんとは違う。間違えたら駄目ですよ。
『わたし……』
『綾香ちゃんはわたしとは違う。しょうがないなんて思えないでしょう』
『……』
『綾香ちゃんだけを見てくれる人じゃないとダメでしょう?』
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる