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第五十四話 春告花
54-2.自己満足の問題
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そういう彼女は手作りする気などさらさらないのだろうなと思いながら今日子は頷く。チョコ作りに関してプロ級の兄がいるので自分は手を出さないと決めているのだろう。
「チョコの型ってケーキ型と底の浅さが全然違うね。代用できればいいのに」
美登利がつぶやくのを聞いて今日子は気持ちが萎えていくのを感じた。これらを買い揃えなければならないのは億劫だ。
「お弁当のアルミカップでいいんじゃない?」
他人事だと思って適当なことを言う美登利にやっぱり止めますと言いかけ、今日子は横に目を向ける。
向こうの端から商品の列を順番に見ながら近づいてくるのは吹田薫子だ。
「吹田さん」
呼びかけても一度では気がつかない。今日子は美登利と顔を見合わせる。
「薫子さん」
今度は美登利が呼びかけると、びくうっと不必要に体を飛び上がらせて薫子はこっちを見た。
「作るの? バレンタインのチョコ」
心無しか人の悪い笑顔になって美登利が薫子に質問する。
「え、ええ。お父さんに……」
「貴島先生には?」
「え、えええっ。そ、そんなことは……」
「だったら私があげちゃおうかなー。この型なんていいかなあ? ハートがぷっくりしてて可愛い」
美登利が手にしたシリコンのハート型は底に丸みがあって確かに可愛い。
「ダメですう!」
何故が涙目になってハート型を奪う薫子。美登利はにやにやとこの上もなく楽しそうだ。
と、すぐに真顔になって優しい声になった。
「先生にあげるなら手作りは止めた方が良いと思う」
「それは確かに」
今日子も激しく同意する。
「え……」
目を丸くする薫子の手からチョコレート型を商品棚に戻して美登利は笑う。
「二個とか三個入りの小箱で十分だと思うよ」
「先生に差し上げるのにそれじゃあ」
「自己満足の問題でしょ。だったら一緒に本命チョコ選ぶ?」
にこりと笑って美登利は薫子と向かい合う。
「同じのを買いましょう。買ったからには必ず相手に渡すこと。いい?」
美登利が言い出したことに今日子も驚く。
「たまには女子っぽいことしたくなっちゃった」
肩をすくめる彼女に今日子は食いつく。
「チョコの型ってケーキ型と底の浅さが全然違うね。代用できればいいのに」
美登利がつぶやくのを聞いて今日子は気持ちが萎えていくのを感じた。これらを買い揃えなければならないのは億劫だ。
「お弁当のアルミカップでいいんじゃない?」
他人事だと思って適当なことを言う美登利にやっぱり止めますと言いかけ、今日子は横に目を向ける。
向こうの端から商品の列を順番に見ながら近づいてくるのは吹田薫子だ。
「吹田さん」
呼びかけても一度では気がつかない。今日子は美登利と顔を見合わせる。
「薫子さん」
今度は美登利が呼びかけると、びくうっと不必要に体を飛び上がらせて薫子はこっちを見た。
「作るの? バレンタインのチョコ」
心無しか人の悪い笑顔になって美登利が薫子に質問する。
「え、ええ。お父さんに……」
「貴島先生には?」
「え、えええっ。そ、そんなことは……」
「だったら私があげちゃおうかなー。この型なんていいかなあ? ハートがぷっくりしてて可愛い」
美登利が手にしたシリコンのハート型は底に丸みがあって確かに可愛い。
「ダメですう!」
何故が涙目になってハート型を奪う薫子。美登利はにやにやとこの上もなく楽しそうだ。
と、すぐに真顔になって優しい声になった。
「先生にあげるなら手作りは止めた方が良いと思う」
「それは確かに」
今日子も激しく同意する。
「え……」
目を丸くする薫子の手からチョコレート型を商品棚に戻して美登利は笑う。
「二個とか三個入りの小箱で十分だと思うよ」
「先生に差し上げるのにそれじゃあ」
「自己満足の問題でしょ。だったら一緒に本命チョコ選ぶ?」
にこりと笑って美登利は薫子と向かい合う。
「同じのを買いましょう。買ったからには必ず相手に渡すこと。いい?」
美登利が言い出したことに今日子も驚く。
「たまには女子っぽいことしたくなっちゃった」
肩をすくめる彼女に今日子は食いつく。
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