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第四十九話 雪の天使
49-2.「兄妹だからだろ」
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ずっと前に同じようなことを池崎正人に頼んだ。だけど正人は以前の彼とは違う。彼女に対して随分と甘くなってしまった。
誠には今更こんなことで頼れない。それにもう、謀略に頭を使ってほしくない。本来の彼はそうじゃないから。
結局、兄と自分の両方に近いのは達彦なのだ。虫がいいとわかっていても彼に頼むしかない。むしろ責任を取れと言いたいところではあるけれど。
彼女の考えがわかるから達彦もただ苦く笑った。すべてを許して受け入れようと思った。だがどうやら自分の役割はそうではないようだ。意地悪くとことん二人の邪魔をしてやる。そういうめぐり合わせなのだろう。
「まったく君らは、そろって同じことを言う」
美登利は視線を戻して達彦を見る。
「どうしてだろう」
「兄妹だからだろ」
少し意地悪な気持ちで言ってやる。美登利は否定も肯定もしなかった。
* * *
あきらめはしないと言っていたものの、巽はすっかりふさぎこんだままだ。こんなことは初めてだから亜紀子もさすがに心配になる。そうはいってもできることなど何もないのだが。
仕事も手に付かずリビングでぼんやりしていたらインターホンが鳴った。
モニターの画面に思わぬ人の姿を認めて亜紀子は有頂天になる。
「みどちゃん! いらっしゃい」
「突然ごめんなさい」
微笑んで美登利は亜紀子にケーキの箱を差し出す。
「巽さんはちょっとお籠りで。私のお茶でいいかしら」
上着を脱いでソファに座りながら美登利は頷く。
「用があるなら呼んでくるよ」
「後で良いです」
「そう? ならケーキを先に食べましょう」
亜紀子が淹れてくれた紅茶は少し薄かった。あたりまえだが美登利の好みを知り尽くした兄とは違う。
「亜紀子さんは、お兄ちゃんのおかしなところが好きだって言ってましたね」
「そうだっけ? まあ、それもそうだけど」
目を伏せてカップを持つ彼女をうっとり眺めながら亜紀子はデッサンしたくてうずうずする。
「最初は一目惚れだからなあ」
「ほんとに?」
「うん。それでね、付き合ってくださいって告白したら言われたんだよ」
――僕は妹が大好きで、いちばん愛していて、あの子以外大切なものなんて何もない。
誠には今更こんなことで頼れない。それにもう、謀略に頭を使ってほしくない。本来の彼はそうじゃないから。
結局、兄と自分の両方に近いのは達彦なのだ。虫がいいとわかっていても彼に頼むしかない。むしろ責任を取れと言いたいところではあるけれど。
彼女の考えがわかるから達彦もただ苦く笑った。すべてを許して受け入れようと思った。だがどうやら自分の役割はそうではないようだ。意地悪くとことん二人の邪魔をしてやる。そういうめぐり合わせなのだろう。
「まったく君らは、そろって同じことを言う」
美登利は視線を戻して達彦を見る。
「どうしてだろう」
「兄妹だからだろ」
少し意地悪な気持ちで言ってやる。美登利は否定も肯定もしなかった。
* * *
あきらめはしないと言っていたものの、巽はすっかりふさぎこんだままだ。こんなことは初めてだから亜紀子もさすがに心配になる。そうはいってもできることなど何もないのだが。
仕事も手に付かずリビングでぼんやりしていたらインターホンが鳴った。
モニターの画面に思わぬ人の姿を認めて亜紀子は有頂天になる。
「みどちゃん! いらっしゃい」
「突然ごめんなさい」
微笑んで美登利は亜紀子にケーキの箱を差し出す。
「巽さんはちょっとお籠りで。私のお茶でいいかしら」
上着を脱いでソファに座りながら美登利は頷く。
「用があるなら呼んでくるよ」
「後で良いです」
「そう? ならケーキを先に食べましょう」
亜紀子が淹れてくれた紅茶は少し薄かった。あたりまえだが美登利の好みを知り尽くした兄とは違う。
「亜紀子さんは、お兄ちゃんのおかしなところが好きだって言ってましたね」
「そうだっけ? まあ、それもそうだけど」
目を伏せてカップを持つ彼女をうっとり眺めながら亜紀子はデッサンしたくてうずうずする。
「最初は一目惚れだからなあ」
「ほんとに?」
「うん。それでね、付き合ってくださいって告白したら言われたんだよ」
――僕は妹が大好きで、いちばん愛していて、あの子以外大切なものなんて何もない。
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