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第四十七話 忠告と後悔
47-4.天才だね
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灰色だった自分の世界。この子が生まれてすべてが変わった。こんなにも喜びに満ちて愛に溢れていることを知った。感謝の気持ちでいっぱいになった。それなのに。
「巽くんでもそんなふうに思う?」
「思うよ」
二人だけの世界なら良かった。変わることの痛みも奪われる恐怖もなく、ただ満たされるだけの世界ならよかった。けれど現実はそうではない。次々に男たちは現れて彼女を取り巻いていく。歪めていく。
それでも、手を握っていれば良かった。逃げ出すべきではなかった。離れさえしなければこれほどの仕打ちを受けることもなかっただろうに。
(怒ってるんだね)
誓いを破った。約束を踏みにじった。あの子を傷つけた。でもね、仕方がなかったんだ。気が狂いそうだったんだ。あのままじゃ。
「どうして子どもの頃のまま、変わらずにいられないのかなあ」
「そりゃあ、みんな大人にならなきゃいけないわけだし」
ずずっと淳史はお茶を啜って天井を見上げる。
「でもさ、変わらないことだってあるよ。もちろん」
饅頭のセロファンをはがしながら巽は従兄の顔を見る。
「たとえば、何かを好きだって気持ち。子どもの頃好きだった漫画とか歌とかさ。今読み返したり聴いたりしてもやっぱ好きだなーって思うんだよね。好きな食べ物だってそうだろ? 僕は子どもの頃からはんぺんが好き」
「……そうだね」
「離れちゃったり飽きちゃったりする時期があっても、戻ってみてやっぱ好きだなーってなるんだよね。前とはちょっと違う気持ちだったりするけども、そういうのを変わらないっていうんじゃない?」
「淳史さん、天才だね」
「は? 何言ってんの巽くん。君に言われたくないんだけど」
「いや。淳史さん、凄いよ」
「そ、そう?」
テレテレと顎をかく従兄を見つめながら巽は思う。そうだ。いつだって、どこにいたって心はあの子に戻っていく。変わってしまうことだけを恐れていた。闇雲にそれだけを。
だけどそうだ。変わってしまったなら戻せばいい。正せばいい、何度でも。それだけのことだったのに。
誓いなら何度だって立てる。何度だって叫ぶ。二度と離れない。愛してる。
「巽くんでもそんなふうに思う?」
「思うよ」
二人だけの世界なら良かった。変わることの痛みも奪われる恐怖もなく、ただ満たされるだけの世界ならよかった。けれど現実はそうではない。次々に男たちは現れて彼女を取り巻いていく。歪めていく。
それでも、手を握っていれば良かった。逃げ出すべきではなかった。離れさえしなければこれほどの仕打ちを受けることもなかっただろうに。
(怒ってるんだね)
誓いを破った。約束を踏みにじった。あの子を傷つけた。でもね、仕方がなかったんだ。気が狂いそうだったんだ。あのままじゃ。
「どうして子どもの頃のまま、変わらずにいられないのかなあ」
「そりゃあ、みんな大人にならなきゃいけないわけだし」
ずずっと淳史はお茶を啜って天井を見上げる。
「でもさ、変わらないことだってあるよ。もちろん」
饅頭のセロファンをはがしながら巽は従兄の顔を見る。
「たとえば、何かを好きだって気持ち。子どもの頃好きだった漫画とか歌とかさ。今読み返したり聴いたりしてもやっぱ好きだなーって思うんだよね。好きな食べ物だってそうだろ? 僕は子どもの頃からはんぺんが好き」
「……そうだね」
「離れちゃったり飽きちゃったりする時期があっても、戻ってみてやっぱ好きだなーってなるんだよね。前とはちょっと違う気持ちだったりするけども、そういうのを変わらないっていうんじゃない?」
「淳史さん、天才だね」
「は? 何言ってんの巽くん。君に言われたくないんだけど」
「いや。淳史さん、凄いよ」
「そ、そう?」
テレテレと顎をかく従兄を見つめながら巽は思う。そうだ。いつだって、どこにいたって心はあの子に戻っていく。変わってしまうことだけを恐れていた。闇雲にそれだけを。
だけどそうだ。変わってしまったなら戻せばいい。正せばいい、何度でも。それだけのことだったのに。
誓いなら何度だって立てる。何度だって叫ぶ。二度と離れない。愛してる。
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