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第四十六話 魔女再び
46-2.馬鹿な男になる
しおりを挟む「百合香先輩か」
聞いて一ノ瀬誠も苦く笑う。
「あの人に逆らうパワーなんかもう出ないよ」
意味もなくつまさきで彼の足をつつきながら美登利はけだるげにつぶやく。散々上擦った吐息をもらした後はその声音は低い。
「罪滅ぼしか?」
ムッとしたように腹に足を投げ出される。せっかくなので膝小僧を撫でると彼女はぎゅっと抱き着いてきた。
「余裕なんか無かったからな」
指先を遊ばせながら美登利は小さくつぶやく。
高等部にあがって初の選挙で、何がなんでも政権を獲るのだと手段は択ばなかった。当時二年生ながら現職の副会長で次期生徒会長有力候補の岩下百合香は、それはもう手強くて、美登利は徹底的に彼女を攻撃した。屈辱的なほど。
「今、仲が良ければいいんじゃないか」
「他人事だなあ」
頭を起こして覗き込んできた瞳が不満そうだ。
肩を覆うくらいに伸びた髪の先が肌にかかって、その感触に思い出す。
あの頃はこの感触があたりまえだった。巽のために彼女が伸ばした長い髪。思いの分だけ長く重くて、それを受ける自分はなんなのか思い悩んだ。開き直った今だって思い出せば不安はつきまとう。
「馬鹿だなあ」
瞳がくすりと笑って彼女の指先が頬を撫でる。キスしてほしい。思ったら、くちびるが降りてくる。思惑は溶けてなくなる。馬鹿な男になる。それでいいのかはわからない。だけど彼は幸せだった。
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