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第四十四話 悪魔の祈り

44-3.キスが上手いのだから

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 美登利が身につけるのは一ノ瀬誠が贈ったもので、多分それ以外彼女は望まない。わかっていたことなのにうっかりしていた。

 部屋に戻り、自販機で買ってきたコーヒーを開けて一緒にシュークリームを食べた。
「おいしい。窯出しだからサクサクだね」
 にこにことやっぱり幸せそうに美登利は笑う。

 実はシュークリームなんて数えるほどしか食べたことがない。ふと、ずっと前に小暮綾香と須藤恵が作ったのを皆で食べたことを思い出した。あのときの味なんか覚えていないけれど。

「……私、シュークリームは作るの苦手なんだよね。上手く膨らまなくて」
 しまった。正人はまた思う。綾香のことを思い出していたことを悟られた。
 美登利は彼と目を合わせないままケーキの箱を片づける。
 言ってくれれば謝るのに彼女は何も言わない。黙ってまた別のケーキの箱を開ける。
「まだ食べるの?」
「うん」
 イチジクのタルトを口に運んで美登利は微笑む。

「テレビ見て良い?」
「どうぞ」
 既に敷かれてあった布団に正人は寝そべってテレビをつける。バラエティー番組だらけだ。もうすぐニュース番組が始まるであろうチャンネルに合わせてうつ伏せに寝転がる。

 しばらくすると、美登利がすぐ脇に座った。
「食後の運動しなくちゃね」
 身を屈める彼女を迎えて正人は体を返す。見上げる先に、女の顔。
「……」
 途端に美登利は眉を曇らせ彼の手を避けて立ち上がった。無言のまま灯りを消す。

「テレビはいいよ。そのままで」
 低くささやいて彼女が足元に蹲る。体を延ばしてキスしてくれると思ったのに、浴衣の帯をほどいていきなり彼をまさぐり始める。
「ちょ……」
 こんなことは初めてだ。うろたえて体を起こそうとしたが彼女の舌を感じて震えが走る。
「やめろ……」

 言ったつもりだが、言葉にならなかったかもしれない。指を根元にまとわりつかせながら彼女の舌が彼をなぞり上げる。キスが上手いのだからこっちだって上手いに決まってる。
 湧き起ってきた昏い感情も、くちびるに咥えこまれてあっさり溶けた。舌を這わせたまま上下され頭が真っ白になる。
「……っ」
「ごめん……」
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