203 / 324
第三十五話 桃源郷
35-4.遠回り
しおりを挟む
「馬鹿だなあ」
正人のおでこをそっと撫でる。
「顔が赤いよ」
お見通しの癖にそんなふうにからかってくる。それさえもしあわせで。
「やっぱりワイナリーが多いね」
ランチを食べたのもワイナリーの敷地内のレストランで、美登利は観光マップを見てつぶやく。
「先輩はもう飲めるのか」
今の自分にとっては一年の年の差がとても大きい。
「また来年来て一緒に飲もうね。今日はお父さんとタクマにお土産買うだけにする」
ガラス工房を覗いたり遺跡博物館のベンチでぼんやりしたり、とにかくのんびりすごした。
「海側で見るのと空の高さまで違うね」
「そうなんだよな」
「空が近くて箱庭の中にいるみたい」
「盆地だからかなあ。おれは海沿いで見る空の方が好きだな」
「そうかそうか、海なし県の人はそんなに海が羨ましいか」
「その言い方ムカつく」
「山も楽しいね。今度はサクランボ狩りに来たいな」
「……うん」
こんなにも、先の約束ができることが嬉しい。
宿の部屋で布団の上にふたりで向かい合ったときには、なんとも言えない気分になった。
「なんか照れる」
「うん……」
綾香には大胆なことを言ってたくせに美登利はずっと俯いている。
かと思うといきなり泣き出したから正人はぎょっとした。
「先輩?」
またなんのスイッチが入ったのやら。
「どうしてこんなに遠回り遠回りなんだろうね」
「……うん」
「ばかだよね、私」
「先輩がバカならおれだってバカだ。間違えないとわからないんだ」
それでもやり直せたことに感謝しなくてはならない。失くしたまま取り戻せないことの方がきっと多い世の中で、こうやってまた彼女と向き合うことができた。
「間違えたくなんかないのにね」
「しょうがないよ、みんなバカなんだ」
夏に見たときより少し伸びた髪に触れる。美登利はかすかに微笑んで瞳を伏せる。
触れるだけのキスを何度もした後、正人は尋ねてみる。
「おれのこと好き?」
「大好き」
睫毛の影が、揺れる眼差しに差してゾクゾクする。
「私のこと好き?」
吐息がかかる距離でささやかれ、理性なんか簡単にぐずぐずになる。
「好き。愛してる」
正人のおでこをそっと撫でる。
「顔が赤いよ」
お見通しの癖にそんなふうにからかってくる。それさえもしあわせで。
「やっぱりワイナリーが多いね」
ランチを食べたのもワイナリーの敷地内のレストランで、美登利は観光マップを見てつぶやく。
「先輩はもう飲めるのか」
今の自分にとっては一年の年の差がとても大きい。
「また来年来て一緒に飲もうね。今日はお父さんとタクマにお土産買うだけにする」
ガラス工房を覗いたり遺跡博物館のベンチでぼんやりしたり、とにかくのんびりすごした。
「海側で見るのと空の高さまで違うね」
「そうなんだよな」
「空が近くて箱庭の中にいるみたい」
「盆地だからかなあ。おれは海沿いで見る空の方が好きだな」
「そうかそうか、海なし県の人はそんなに海が羨ましいか」
「その言い方ムカつく」
「山も楽しいね。今度はサクランボ狩りに来たいな」
「……うん」
こんなにも、先の約束ができることが嬉しい。
宿の部屋で布団の上にふたりで向かい合ったときには、なんとも言えない気分になった。
「なんか照れる」
「うん……」
綾香には大胆なことを言ってたくせに美登利はずっと俯いている。
かと思うといきなり泣き出したから正人はぎょっとした。
「先輩?」
またなんのスイッチが入ったのやら。
「どうしてこんなに遠回り遠回りなんだろうね」
「……うん」
「ばかだよね、私」
「先輩がバカならおれだってバカだ。間違えないとわからないんだ」
それでもやり直せたことに感謝しなくてはならない。失くしたまま取り戻せないことの方がきっと多い世の中で、こうやってまた彼女と向き合うことができた。
「間違えたくなんかないのにね」
「しょうがないよ、みんなバカなんだ」
夏に見たときより少し伸びた髪に触れる。美登利はかすかに微笑んで瞳を伏せる。
触れるだけのキスを何度もした後、正人は尋ねてみる。
「おれのこと好き?」
「大好き」
睫毛の影が、揺れる眼差しに差してゾクゾクする。
「私のこと好き?」
吐息がかかる距離でささやかれ、理性なんか簡単にぐずぐずになる。
「好き。愛してる」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる