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第三十話 聖夜の奇蹟

30-3.「何やってるの?」

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「どうしました?」
「う? いや……」
 リクエストがあったのかまたワルツの曲がかかる。
「行こうよ」
「いいの?」
「質問の意図がわかりかねますが、宮前くんとなら」
 どうしようもなく顔が熱くなる。
「う、うん」

 星に願うまでもなく奇蹟が起きた。これが聖夜のミラクルというやつか。
「……ロータスでもやってるかな」
「そうですね。凝りもせずあの方がバラの花束抱えて来ていることでしょう」
「ははは……」




 賑わっている駅前商店街の奥、昔ながらのアーケード街の更にはずれにその店はある。看板らしい看板はなく扉の脇に取ってつけたようなプレートが張り付いているだけ。商売っ気のないその店に、自分の会いたい人がいる。


「みどちゃんは?」
「タバコ屋のばあさんとこにチキン置きに行ったぞ」
 今年も赤いバラを抱えた姿に琢磨は呆れる。
「辞め時がわからないだけだ」
 唇を曲げて達彦はカウンターに花束を置く。
「飲むか?」
「勝手にやるよ」

 常連客がテーブルで賑やかにしているから、達彦はいつもの宮前の定位置に座る。壁のポスターを眺めて嘆息する。
「お坊ちゃんはタイヘンだ」
 青陵学院ができなければ美登利もまだこういう世界にいたのかもしれない。
 ふと浮かんだ考えを掘り下げてみて、達彦は場に合わない嫌な思考に捕らわれる。

 もしも巽が妹のために青陵学院の創立に加担したのなら、この店に彼女がいるのだって巽がきっかけを作ったわけで、巽はいつだって彼女に居場所を用意している。憎らしいくらい周到に。
 今また彼がしようとしていることが、妹を連れていくことだとしたら……。
 嫌な考えを追い払うように達彦は舌打ちする。早くあの子の顔が見たい。

 その中川美登利はロータスの店先にちょうど戻ってきたところだった。
 賑やかな声が外まで聞こえている。こうやってクリスマスをすごすのはもう何度目のことか。

「……」
 扉を開ける前に気がついて顔を上げる。
 通りの少し先に池崎正人がいた。じっと俯いて佇んでいる。
 ノブからそうっと手を離し、美登利は彼に近づいた。

「何やってるの?」
 呆れたように問われて正人は顔を上げる。ずっとずっと見たかったきれいな瞳が彼を見ている。
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