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第二十九話 花と落涙
29-8.「お兄ちゃんとはこんなことしない」
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「入れて、はやく」
息を呑んで見つめ返す。
「でも」
「いいから」
足を開いて自分で押し広げる。
「まさか役に立たないの?」
泣きながら挑発される意味がわからない。こんな子は他にはいない。
「ちゃんとしてね」
「わかってる」
待っている間にも自分で弄って状態を維持する慣れた仕草。苦々しく思いながら体を寄せる。彼女はもう顔を隠さない。じっとこっちを見上げている。
ゆっくり挿入していく合間にも息を弾ませて額に汗を流す。様子が不安で動けずにいると彼女は誘うように腕を伸ばした。応えて顔を寄せる。達彦の顔を確かめるように両手で触れながら、不意に微笑む。
「お兄ちゃんとはこんなことしない」
微笑みながら涙を落とした。
胸を衝かれて抱きしめる。
「お兄ちゃんとはこんなことしない……」
繰り返すくちびるが震えている。
「わかってる、わかってるよ」
ごめんね、本当にごめんよ。優しく揺すりながら体を進める。
「ん……」
泣きながら彼女は小さく声をもらす。
ごめんね、ごめん、もう責めないから。
伝わったかはわからない。最後には彼の肩にしがみついて彼女は長くか細く息を吐き出した。
体を丸めて横たわったままのおでこにそっと触れる。うっすら目を開けたのを見て話しかける。
「門限あるだろ? 今日は泊まるって家に電話できるか? それとも俺が頼んで女史に連絡してもらおうか?」
「自分でできる」
重たげに体を起こしてベッドからずり落ち鞄を持って美登利はバスルームに入っていった。
それから長いこと経っても出てこない。心配になって中を覗く。洗面台の下に携帯と鞄が放り出されている。奥からは物音もしない。
「開けるよ」
奥のドアを開けると美登利は広いバスタブの隅で背中を丸めて声を立てずに泣いていた。達彦を見ると泣きじゃくって手を伸ばしてくる。
「誰にも言わないで。お願い、言わないで、言わないで!」
必死の形相に少女の頃の彼女が重なる。
「言わないよ、大丈夫。大丈夫だから」
「言わないで、誰にも言わないで……」
兄を求めていることを。
息を呑んで見つめ返す。
「でも」
「いいから」
足を開いて自分で押し広げる。
「まさか役に立たないの?」
泣きながら挑発される意味がわからない。こんな子は他にはいない。
「ちゃんとしてね」
「わかってる」
待っている間にも自分で弄って状態を維持する慣れた仕草。苦々しく思いながら体を寄せる。彼女はもう顔を隠さない。じっとこっちを見上げている。
ゆっくり挿入していく合間にも息を弾ませて額に汗を流す。様子が不安で動けずにいると彼女は誘うように腕を伸ばした。応えて顔を寄せる。達彦の顔を確かめるように両手で触れながら、不意に微笑む。
「お兄ちゃんとはこんなことしない」
微笑みながら涙を落とした。
胸を衝かれて抱きしめる。
「お兄ちゃんとはこんなことしない……」
繰り返すくちびるが震えている。
「わかってる、わかってるよ」
ごめんね、本当にごめんよ。優しく揺すりながら体を進める。
「ん……」
泣きながら彼女は小さく声をもらす。
ごめんね、ごめん、もう責めないから。
伝わったかはわからない。最後には彼の肩にしがみついて彼女は長くか細く息を吐き出した。
体を丸めて横たわったままのおでこにそっと触れる。うっすら目を開けたのを見て話しかける。
「門限あるだろ? 今日は泊まるって家に電話できるか? それとも俺が頼んで女史に連絡してもらおうか?」
「自分でできる」
重たげに体を起こしてベッドからずり落ち鞄を持って美登利はバスルームに入っていった。
それから長いこと経っても出てこない。心配になって中を覗く。洗面台の下に携帯と鞄が放り出されている。奥からは物音もしない。
「開けるよ」
奥のドアを開けると美登利は広いバスタブの隅で背中を丸めて声を立てずに泣いていた。達彦を見ると泣きじゃくって手を伸ばしてくる。
「誰にも言わないで。お願い、言わないで、言わないで!」
必死の形相に少女の頃の彼女が重なる。
「言わないよ、大丈夫。大丈夫だから」
「言わないで、誰にも言わないで……」
兄を求めていることを。
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