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第二十九話 花と落涙

29-7.それだけは絶対に許さない

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 唇を曲げて視線を合わせながらつま先の親指を口に含む。こんなことはされたことがないのか彼女の顔が歪む。指の間まで舌を這わせながら一本一本舐っていくと小指に行きつく頃には顔を背けて体を震わせていた。
 もう片方の足も引き寄せる。口づける前にその場所が期待にひくついているのがわかった。素直で正直、なんていいからだだ。

 つま先にしゃぶりつきながら優美な脚線をなぞり上げる。そこで初めて捩れた声があがった。想像以上のかわいらしさ。
 一度火がつくと止められないのか顔を隠して身悶えしている。馬鹿だな、強がって我慢するからだ。最後に小指を強く吸い上げる。

 のけ反って喘いではいるが苦しそうだ。そのまま膝の裏に甘噛みで歯を立てる。ひかがみを舌でなぞると尚更声がわななき震える。もどかしくて仕方ないはずだ。

 体を伸ばしてもう一度顔を隠す手を剥ぎ取る。
「何を考えてるの?」
 彼女は目を閉じたまま、ただ首を横に振る。その目蓋の裏に、誰がいるのか。

 ぎゅっと眉間にしわを寄せ、彼女の肩を揺さぶってやりたい衝動を堪える。
 体を捩って頭を枕から落とし、背中を波打たせて彼女はもがく。苦しそうに喘ぎながらまた顔を隠す。
 手を止めずに膝頭の内側に噛みつきながら彼にももうわからなくなっていた。今彼女にしている行為が怒りなのか悔しさなのか、ただ欲望のみなのか。だけど彼女に言ってやりたい。

 わかってる? それだけは駄目だ。それだけは許されない。それだけは絶対に許さない。

 少し前に痛いと止められたそこも遠慮なく親指でこする。彼女がぐったりして物も言わずになっているのも気づかなかった。
 すすり泣きが聞こえてきてやっと我に返る。腰を捩じってシーツに頬を押しつけて泣いている。

「ごめん……」
 呆然とつぶやいて体を離す。彼女は体を丸めて動かなくなった。
「泣かないで、ごめんよ……」
 彼女がそっと振り向く。涙に濡れていても目の光は鋭い。これはいよいよ蹴り殺されるな。
 そう思ったのに彼女は思わぬことを言った。
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