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第二十九話 花と落涙

29-6.戦慄

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 がくがくと足が震えて背中が丸まる。それも両手で口を押えているせいか。快感を放出できないからだろうか、不必要に体中を引きつらせながら彼女がイッた後も彼は愛撫を止めない。

「痛い……、痛い!」
 肩を蹴られてようやく体を起こす。荒い息に胸を上下させながら彼女は腕で顔を隠している。
「顔見せて」
「イヤ」
「見せてよ」
 まだ十分に湿ったそこを手のひら全体で撫で上げる。堪りかねたように背中がのけぞって力の抜けた腕がずり落ちる。手の動きに合わせて腰が動くのをもう抑えきれないくせに、まだくちびるを噛み締めている。固く瞳を閉じている。
「目開けて」

 ふいと横を向くのにムカついて顎を捕らえて唇を重ねる。本当にこの娘は言うことをきかない。苦しそうに息を漏らしてくちびるを開く。早く楽になればいいものを。

 だけどそれは自分も同じことを思い知る。絡めた舌先から甘い痺れが回ってくる。彼女の毒に侵される。かまわない、正気を失くす前にそれを引きずりだせたなら。

 彼女が目を細めて自分を見ていることに気がつく。唇を離してその双眸を覗き込む。
「ねえ、何を見てるの?」
 問いかけてみたが彼女は応えない。底光りする瞳の奥の奥の方、そこに何が見えるのか。汗ばむ額やこめかみを撫でながら瞳を探り続ける。力の抜けた顔で彼女も達彦を見ている。本当に? 疑問と同時に湧き起ってきた戦慄。

 まさか。
 閃いたことにハッとする間もなく、彼女がいきなり体を捩じって横面目掛けて足を蹴り上げた。すんでのところで受け止める。

「ねえ……ベッドの上で男を本気で蹴り飛ばす子がどこにいる?」
「殴っても蹴ってもいいって言った」
 彼女が見たこともないほど怒っているのがわかる。逆ギレか。本当にこの子は。

 足首を掴まれたまま横向きに肘をついて睨みあげてくる彼女を見下ろす。これはこれで堪らない。
 そのまま足を持ち上げて最初の態勢に戻る。仰向けに枕に肩を乗せながら彼女は怒りの視線を外さない。まったくこの子は。

 傷跡だらけのつま先からすんなりした脚線美と柔らかそうな内もも、まだまだ湿ったそこからへこんだへそ周りにふっくらと丸い乳房の下側、そして鎖骨から鈍く光る瞳まで一望のもとに見下ろせる。なんという眺め、見ているだけでイキそうだ。
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