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第二十八話 嘘と強欲

28-2.神様じゃないのだから

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「あんたら向こうの寺にもいたね」
 登山帽を被った初老の男性が眼尻に皺を寄せてにこにこしている。
「仲が良いね。いちばん楽しいときだろう」
「仲良く見えますか」
「うん。見えるよ」
 にこにこ笑いながら売り場の方へ優しい目を向ける。
「あっちはあっちで何か話しているようだ」
 美登利と一緒に順番待ちしているのが奥さんらしい。

「まあワタシと家内も仲良しだけどね。じゃなきゃ四十年も一緒にいない」
「仲良くないと一緒にはいられないですか?」
「ん? ああ、言葉が足りなかったかな。ケンカしても仲直りできるってことだよ」
 くすりと笑って男性は眼尻の皺を深くする。

「そうは言ってもつまらないことで怒ってばかりいて、可哀想なことをしたって反省してるんだ。こっちが怒れば相手も怒る。そうだろう?」
「はい……」
「だから向こうが怒ってるときにはこっちが怒っちゃダメなんだ。はいはいって話を聞いてやって、ごめんねって頭を撫でてやれば可愛い女に戻るんだ。……わかっててもなかなかそれができなくてねえ」
「そうですよね」
 わかっていてもできることとできないことがある。神様じゃないのだから。

「だけど平和に仲良く暮らそうと思ったら男が折れた方が早いんだ。女の方が数倍頭が良いんだから男なんか及びもつかない。はいはい言うこと聞いてりゃいいんだ。……その方が気が楽だしね」
「なるほど」
「そんで時々、いつもありがとうって頭を撫でてやればずっと仲良しでいられる。ワタシは息子たちにもそう言ってるんだ」

「良い教えですね」
「うん……余計なおしゃべりして悪かったね」
 アイスを手にした夫人が手招きしているのを見て男性は腰を上げる。
「それじゃあ、良い旅を」
「お気をつけて」

 少し遅れて美登利がアイスを両手に持って戻ってきた。
「黒ゴマきな粉とわさび、どっちがいい?」
「どっちでも」
 美登利は少しの間の後、わさびを一口くちにしてから誠に寄越す。
「おい」
 隣に座ってくすっと笑い、彼の口元にもう片方のアイスも差し出した。




 駅前に戻って楽器博物館へ行き、試演コーナーで一通りの楽器をかき鳴らした後で、お腹が空いたとハンバーガーを食べに行った。
「疲れたね」 
 トレーを縦にふたつ置いて美登利は尋ねる。
「どっちがいい?」
 二種類の包みを眺めて誠はため息をつく。
「どうしておまえは同じものを買わないんだ?」
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