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第二十七話 女の顔

27-6.「なにやって……」

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「ねえ、見て」
 忙しくてランチを食べ損ねたので早めの夕食に入った定食屋。食後のお茶を飲みながら小暮綾香が壁のテレビを指差す。見たことのある駅ビルが映し出されている。
「懐かしいね」
 頬杖をついて綾香は笑う。
「うん」
 池崎正人は湯呑を置いて頷く。

 一時は連絡の途絶えた綾香だったが、最近こうしてまた会うようになった。こんなふうにずるずるするのはよくないとわかっているのに拒絶できない自分は馬鹿だ。それは拓己に嫌がらせされたって仕方ない。

 画面に駅前商店街の巨大カボチャが映し出される。思わず息が止まってしまう。ほんの一年前、あそこで彼女と話した。

 ――どうして私の考えてることわかるのさ?
 ――日々精進してるから。

 努力したつもりだった。だけど自分の覚悟なんて全然足りなくて、敵わなかった。

 ――これを乗り越えれば少しは楽になるよ。

 嘘だ、ちっとも楽になんかならない。会いたくて会いたくて仕方ない。忘れたくないと思うのに、会えないのが苦しくて思い出すことが辛い。でも忘れたくない。思い出せば会いたくなる。その繰り返しで息をするのも苦しい。

『あらら、これはセクシーな魔女さんですね!』
 目に飛び込んできた金髪とんがり帽子のうしろ姿に正人はお茶を吹きそうになった。
「なにやって……」
 そんなかつらなんか被っていたってすぐにわかる。姿勢が異様にいい立ち姿。こんなのあの人しかいない。

『魔女さん、ちょーっと良いですか?』
 にじり寄られて魔女は手にした荷物で顔を隠して振り返る。正人には馴染みのある店名が並んだ派手な色のビニールバッグがズームアップされる。

『あ、顔出しNGですか? すみませんねえ。こんなにお美しいのにもったいない』
 ビニールバッグの後ろでこそこそやりとりしたレポーターが絶叫する。
『皆さんごめんなさい。見てもらえなくて残念ですけど、本当にお美しいです。どちらからいらしたんですか? あ、地元の方ですか? あ、それもNG?』

 カメラが引いて全身が映し出される。
(ああもう、ほんとに何やって……)
 正人は額を押えて泣きそうになる。あんなに、あんなに、無駄に魅力を振りまかないでって頼んだのに、彼女はなんにもわかっていない。そんな魅惑的な格好で何人引きずり込めば気がすむのか。
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