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第二十七話 女の顔

27-5.すごい気合いだね!

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「違和感ないってのがどうよ」
「これなら知ってる人が見てもわかりませんよね」
 見咎めたとしても、あの中川美登利がこんな酔狂な真似をするとは考えないだろう。

 三人三様な表情の前で、金髪ゴージャスセクシー魔女は虚ろな目で顔を凍りつかせていた。



 アーケード商店街加盟店でお揃いで作った派手な色の大きなビニールバッグを持たされて、ブロンド魔女は駅前通りを歩く。
 不測の事態に備えて後ろからこそこそ付き従っていた和美はあることに気がつく。
「あのさ、誰も袋なんか見てないよね」

 すれ違う人たちはあんぐりと口を開けて振り返り、背中から腰にかけての見事なラインや脚線美に注目しているし、若い女子たちはメイクや衣装が気になるようだ。通りの向こうからは遠慮のない視線が胸元や腰つきに飛んで来る。

「やりすぎなんですよ」
 ギリギリと歯ぎしりして今日子は目を吊り上げる。
「もうやめましょう。こんなことしたって……」
「おねえさん!!」
 仮装した子どもたちの集団が駆け寄っていって魔女を取り囲む。和美と今日子はギョッとした。

「今年はすごい気合いだね! そんなにお菓子が欲しいの? 仲間に入れてあげようか?」
 当然のように話しかける少年の口を和美が後ろから抑える。その前に今日子がしゃがみ込んでにこにこ言い聞かせる。
「いいですか、みなさん。この人はおねえさんじゃありませんよ。コワーい魔女さんです。気軽に話しかけてはいけませんよ」
 無表情に自分たちを見下ろす魔女の顔を見上げてカシコイ少年はこくこく頷いた。

「ひゃー、子どもは侮れない」
「まったくです」
 いよいよ駅前商店街へと向かう魔女に目を配っていた二人は再びギョッとした。巨大カボチャの前にテレビカメラが来ている。
「や・ば・い」

 情報番組の生放送のようだ。レポーターまでいる。魔女もそれに気がついて、鮮やかなターンで体を返し直ちに戻ってこようとする。その後姿に目を付けられた。
「あらら、これはセクシーな魔女さんですね!」

 とっさに出ていこうとする今日子を和美が押えつける。
「ダメだって、うちらがくっついてたらバレちゃうよ」
「……っ」
 今日子は涙目になって美登利を見る。

「魔女さん、ちょーっと良いですか?」
 カメラがにじり寄ってくる。
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