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第二十七話 女の顔
27-1.「なんのことでしょう?」
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駅前商店街の真ん中に現れた巨大カボチャを中川美登利は無表情に見上げている。坂野今日子は悲しい思いでその冷たい横顔を見つめる。
「今年は大きなランタンを作ろう」
唐突に笑顔になって美登利は言う。
「また子どもたちがお菓子をねだりに来るかもしれない」
「お手伝いします」
「ありがとう」
今日子に向かって美登利は微笑む。最近の彼女はこうやって笑顔の大安売りをする。無表情に顔を強張らせているか作り笑いをしているかのどちらかだ。今日子にはそれが悲しい。
ランタン用の大ぶりのかぼちゃを買って二人で運んで戻ると、志岐琢磨が眉を吊り上げた。
「邪魔だからやめろと言っただろうが」
「いいでしょう、ほんのひと月置くだけだから」
上目遣いで美登利が見つめると琢磨は舌打ちして黙る。本当にこの人も甘い。
平日の昼間で人通りがないから店先に新聞紙を広げて作業を始める。
まずは顔の下書きをするべきところだが、二人とも絵心がないから悩んでしまう。
そうこうしていたら宮前仁が来て、面白がって目と鼻と口を書き入れた。意外に上手くて感心する。
上部に穴をあけて代わる代わる中をくり抜いていると、周りの商店の人たちが寄ってきた。
「ハロウィンね、最近あたりまえになったよね」
「駅前はでっけえかぼちゃ置いてんだよ」
「こっちもなんかやろうかねえ」
「今更だろ、今年はやりたい店はやればいい」
そのまま井戸端会議が始まってぞろぞろロータスに入っていく。
美登利がコーヒーを淹れに離れた間に今日子はひとりで中身をかきだしてしまう。
「もったいないけどこれは食べれないんだよね」
独り言を言っていると、
「そうだよ」
と返事が降ってきた。見上げると仕事帰りらしい村上達彦が立っている。
「あの子の手伝い? ご苦労様なことだね」
「そんなこと」
言われる筋合いはない。
「何をしたの?」
瞼がぴくりとしてしまう。今日子は睨みあげることでそれをごまかした。
「なんのことでしょう?」
「とぼけなくてもいいよ」
達彦は笑って今日子の針の視線を受け止める。
「褒めてあげようと思ってるんだ。やさぐれ加減はかわらないけど少し余裕ができたようだ」
「……」
「今年は大きなランタンを作ろう」
唐突に笑顔になって美登利は言う。
「また子どもたちがお菓子をねだりに来るかもしれない」
「お手伝いします」
「ありがとう」
今日子に向かって美登利は微笑む。最近の彼女はこうやって笑顔の大安売りをする。無表情に顔を強張らせているか作り笑いをしているかのどちらかだ。今日子にはそれが悲しい。
ランタン用の大ぶりのかぼちゃを買って二人で運んで戻ると、志岐琢磨が眉を吊り上げた。
「邪魔だからやめろと言っただろうが」
「いいでしょう、ほんのひと月置くだけだから」
上目遣いで美登利が見つめると琢磨は舌打ちして黙る。本当にこの人も甘い。
平日の昼間で人通りがないから店先に新聞紙を広げて作業を始める。
まずは顔の下書きをするべきところだが、二人とも絵心がないから悩んでしまう。
そうこうしていたら宮前仁が来て、面白がって目と鼻と口を書き入れた。意外に上手くて感心する。
上部に穴をあけて代わる代わる中をくり抜いていると、周りの商店の人たちが寄ってきた。
「ハロウィンね、最近あたりまえになったよね」
「駅前はでっけえかぼちゃ置いてんだよ」
「こっちもなんかやろうかねえ」
「今更だろ、今年はやりたい店はやればいい」
そのまま井戸端会議が始まってぞろぞろロータスに入っていく。
美登利がコーヒーを淹れに離れた間に今日子はひとりで中身をかきだしてしまう。
「もったいないけどこれは食べれないんだよね」
独り言を言っていると、
「そうだよ」
と返事が降ってきた。見上げると仕事帰りらしい村上達彦が立っている。
「あの子の手伝い? ご苦労様なことだね」
「そんなこと」
言われる筋合いはない。
「何をしたの?」
瞼がぴくりとしてしまう。今日子は睨みあげることでそれをごまかした。
「なんのことでしょう?」
「とぼけなくてもいいよ」
達彦は笑って今日子の針の視線を受け止める。
「褒めてあげようと思ってるんだ。やさぐれ加減はかわらないけど少し余裕ができたようだ」
「……」
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