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第二十六話 悪魔のキス

26-8.「私が動く」

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「大丈夫、後でちゃんと中でイかせてあげる」
「……」
 大きく息をつきながらぼんやり視線を彷徨わせている彼女の口元に軽くキスしながらぬめる指を入口から上へと滑らす。体をのけ反らせる彼女の反応に嬉しくなってしまう。

 触ってほしくて仕方なかっただろうそれを人差し指でそっと撫でる。苦しそうに身悶えしてつま先を泳ぐように動かしている。そのくせまだ声をあげない。少し意地悪したくなって手を離す。

 そこで彼女は足を閉じて腰を浮かせ、シーツを強く握りながら余韻でイッてしまった。取り残された気分の彼を濡れた瞳が睨みあげる。
「も、入れて、早く」
 喘ぎをこらえるのに噛み締めていたのかくちびるが赤い。ぞくりとして言うことを聞いてしまっていた。

「ん……」
 当てがったとき、初めてくちびるの間から声がこぼれた。これは、と思ってゆっくりゆっくり挿入する。
「あ、あ……」
 顔を隠しても喘ぎはもうこらえ切れないようだ。嫌々をするように頭を振る様子がなんとも言えない。
 全部入ると、息をつきながら彼の肩を掴んで彼女は体を起こした。

 いきなり座位ですかと驚いたが違った。そのまま押し倒される。
「私が動く」
 暗に動くなと言われて頷くと、ご褒美のようにキスを貰えた。ただでさえ角度がついて気持ちいいのにヤバいだろ、と思ったところでくちびるが離れる。
 彼女は上体を起こして腰を前後に揺らし始める。ゆっくりゆっくり、背中を逸らせていく。

 それまで騎乗位の醍醐味は高速ピストンで揺れる乳を鑑賞することだと思っていた彼は、自分の幼稚さに気づかされた。激しく喘いでよがればエロいわけではないのだ。
 のけ反った彼女の顎の先から白い首元、理想的な胸の丸みを今度は下から堪能して唾を飲み込み、見事な腰のくびれに圧倒される。顔も体も最高の女が自分の上で腰をくねらせている。

(ヤバい……)
 ふっと彼女が視線を下ろした。目が合うと、瞳を合わせたままじわじわと上下の動きを加える。結合部分が見えて嫌でも興奮が駆け上がってくる。
「待って、ヤバい……」
 先にイキそう。音を上げると彼女は笑って根元まで咥えこみ、ゆっくりゆっくりグラインドを始める。
「ん……」
 ほっそりした下腹部が緊張して吐息がこぼれるのと同時に、締めつけを感じた。
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