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第二十六話 悪魔のキス
26-6.ヤバい
しおりを挟むお礼をしなければと言われてすかさず頼み込んだ。出会ったばかりの頃のようにできるだけ軽薄に。まさか彼女がオーケーするとは。
坂野今日子に伝授された通りに事が運んでいく。空恐ろしいくらいに。
だけどそんな警戒心は部屋に入った途端に溶けてなくなった。自分にしてはこれまで十分時間をかけた。早く抱きたい。
彼女が何か言いかけたふうだったが、有無を言わさずキスした。
さて、これからどんな手順で進めよう。楽しい思考を巡らせた矢先、それは弾き飛ばされた。絡めた舌に頭が真っ白になって本能を突き動かされる。
服を脱ぐのももどかしい。こんなことは初めてだった。
押し倒して夢中でキスしながら下着の中に手を滑り込ませる。片足を引き抜いてのしかかる。
かろうじて残った理性でコンドームを探すと、彼女が既に取り出していた。興奮しきっている彼と違って至って冷静だ。目を伏せて彼のものに被せる。その長い睫毛を見ているだけで快感が跳ね上がる。
ヤバい、ヤバい。ひたすら腰を進めて間もなく彼は果てた。額に汗を浮かべてようやく一息つく。
自分に組み敷かれて天井を見上げている彼女を見て一気に冷静に戻った。
「ごめん……」
引き抜いて体を離す。まとわりついていた衣服をその場で脱ぎ捨てて彼女は無言のままバスルームに消えた。
芦川は後始末しながら心の中で頭を抱える。なんてことをしてしまったんだろう、こんなことは初めてだ。
頭からタオルを被って出てきた彼女に言いすがる。
「まだ帰ったりしないよね。挽回するからさ、まだいてよ。ね?」
彼女が頷くのを見届けて自分もバスルームにかけこんだ。シャワーをすませて早々に戻ると、彼女は裸にタオルをかけたままの格好でベッドに座っている。
「君っていつもそんななの?」
不思議そうに彼女は芦川を見上げる。何を言われているのかわからないらしい。
「……頭乾かさないと風邪ひくよ」
別のことを指摘すると彼女は笑って芦川に言った。
「拭いて」
そんなことはしたことがない。彼女は当然のように待っている。
仕方なく後ろに回って恐る恐るタオルで彼女の頭を包む。自分にするようにガシガシできない。美容院でされていることを思い出しながらやってみる。
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