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第二十六話 悪魔のキス

26-5.チョコレート

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 要領を得ない様子に眉をひそめて、今日子は声を低くした。
「本気の相手ならあの人にはいくらでもいるんです。それが今のあの人にとっては重いのです。だけど遊び相手としてなら、受け入れてもらえるかもしれませんよ」

 芦川は絶句して今日子を見る。
「え、ちょ……君さ、あの子が大事なんだよね? 大好きなんだよね?」
「そうですよ」
「大事な友だちに浮気を唆すわけ? おかしくない? 女ってのはさ……」
「あなたの女性観なんて興味ないです」
 切り捨てて今日子はふうっと息を吐き出す。

「遊び相手を目指すにしても細心の注意が必要ですよ。今はあの人もまわりもとても気が立っています。いかに日陰の身でいることができるかが肝心です」
「おっかない人たちに見つからないように? はは、秘密の愛人みたいだね」
「そういうことです」
 また絶句する芦川を見上げて今日子は難しい顔をする。
 こいつが上手くやるかどうかは賭けだ。それでも。

 美登利は未だかつてなくぐらついている。一ノ瀬誠は池崎正人の一件を引きずっていて当てにならない。村上達彦は彼自身が要注意人物すぎて頼れるわけがない。それならば早急に駒が必要だ。当たり障りなく使い捨てにできる誰か。
 本当は……。心の奥底から今日子は思う。正人が戻ってくれさえすれば美登利は落ち着く。確信を持ってそう思う。だがそれは今日子にはどうにもできないことだ。

 ならばこの男を動かすしかない。一時でも美登利の気が紛れれば、その間に誠が何か策を練るだろう。一時でいい。
「その気があるなら助言しますよ」
 芦川のことはキライだが、今はこいつが適役だ。もう一押ししようと口を開きかけた今日子に向かって、彼はにやりと笑った。




 人目を避けて図書館裏のベンチで昼休みをすごしていると、芦川がやって来た。
 そっと美登利に向かって箱を差し出す。
「好きなんだってね、チョコレート」
 美登利は無表情にそれを眺めやり、そして視線を今日子に流す。今日子は黙って目を伏せる。

「……どうもありがとう」
 固い表情のまま美登利は箱を開けて一粒口に入れる。予約をしないと手に入らないホテルメイドの逸品だ。美味しいに決まってる。
 美登利が満足そうに微笑むのを見て今日子はほっと胸を撫でおろした。
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