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第二十五話 密談

25-3.スカボローフェア

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 手つかずのアイスコーヒーのグラスから水滴が流れている。
「俺はあいつが怒らないでと言えば許すしかないし、あいつが隠すなら見て見ぬ振りをするしかない。わざわざ二人仲良く裁かれに来て、彼を遠ざけたのはあいつの意志ですよ」
「あのな……」

「あなたの言った通りだ。俺はあいつの望み通りにするしかない。どんなに情けなくたってそうする。その立場を与えられたのは俺だから」
 何か言いたそうにしている達彦を制して誠は彼を睨む。
「あいつがあなたと寝たって俺は許しますよ」

「……へえ。そりゃ、すごい覚悟だね」
 それなら遠慮なく、と言いそうになって我に返る。乗せられてどうする。達彦は大きく息をつく。
「今はそんなことより巽だ。あの子に踏み止まってもらうには池崎がいた方がいい。俺はそう思う」
 新聞と伝票を持って立ち上がる。

「俺の意見は話したからな。おまえも少し冷静になって、その百戦錬磨の頭で考えてくれや」
「……」
「あの子が望むならそれでいい、なんて言ってくれるなよ」
「言わないですよ。あいつがいなくなるのだけは耐えられない」
「良かった。俺もだよ」

 会計をして外に出た。通りから窺ってみたが誠は席で固まったままだ。
「ガキが、無理しやがって」
 自分がどれほど愛されているか気づきもせずに。

 ――誰にも言わないで。

 彼女が隠すのはみんな彼自身の為なのに。
 教えてやる義理はない、達彦だってそこまで人が良くはなれない。

 だがそう考えると、つくづく池崎正人は特別だったということになる。たかだか二年やそこらで彼女の愛を得てしまった。誠が平静でなくなるのも仕方がない。
(確かに奴には酷かもな)
「さて、どうしたものか」




 達彦の次の休日に合わせ、美登利の友人の小宮山唯子が墓地のガーデニングのスケッチを持ってロータスにやって来た。
「基本は手間のかからない多年草のハーブでレイアウトを考えてみました」
「セージ、タイム、ローズマリー……。スカボローフェアだねぇ」
「おまじないになるくらい生命力にあふれた植物だから、やっぱり選ばれるってことで」
 美登利の感想に唯子は笑う。

「これにラベンダーをグランドカバーにして、ただ冬に寂しくなるのは嫌なのでクリスマスローズを足して、カザニアはアクセント程度にすれば自然な中にも華やかさが出て良いかなって」
「カザニアかあ、あんまり故人のイメージじゃないかも。アリッサムとかプリムラのほうが……」
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