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第二十五話 密談

25-2.最悪の結末

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「そんなこと……」
 言われてみれば、考えたこともなかった。巽の内面を推し量るなど誠にとってはとんでもないことだ。
「そうなんだよな」
 達彦は額を押える。
「俺だってそうだ。奴はトンデモすぎて、それが標準で、あの子に対する態度に何かあるなんて疑問にすら思わなかったが」
 口調が変わってしまっている。達彦にも余裕がないということだ。

「恋人がいることに安心しちまってた。聞けばその女も相当クセがあるんだろう?」
「そうですね」
 同性でも美登利に執着する人間はいくらでもいる。坂野今日子を筆頭に城山千重子もそうだと言えるだろう。
 榊亜紀子の不穏さは今日子よりも千重子理事長の方に近い。彼女を陳列棚にでも並べて愛でようとするかのような収集家のそれ。
 考えたら寒気を感じた。まさかそんなことを巽が許すはずもない。

「なあ。俺たちにとって最悪の結末ってのはなんだ?」
「それは……」
「奴にあの子をかっさらっていかれることだろう?」
「……」
「元から自分のものだ、くらいに言うぜ。奴は」
「そんなこと……」
 目の前がぐらぐらしてきて誠は頭を押える。
「巽があの子を愛していて、婚約者も共犯だとして、さて、どうする?」
 とんでもないことだ。止めるすべなどあるはずがない。

「幸い奴はあの子の気持ちを知らない」
 達彦は背もたれに肘を乗せてどこを見るともなしに見上げながら唇を曲げる。
「あの天才が気づかないわけないと思ってた時期もあったが、そうでもないようだ。多分、奴にとってもあの子はモンスターなんだ」
 誠が目線を向けると達彦もそれを合わせてきた。
「そうなると、決めるのはやっぱりあの子なんだ」
 いつだって、決めるのは。

「あの子が望まないことを巽はしない。それが奴の泣き所でもある。だけどもしあの子が望めば」
 眩暈をこらえて誠は唇を噛む。
「あっという間にあの子を連れて、俺たちの前から姿を消すだろうさ」
 確信に満ちた口調で達彦は言い切る。

「さて、どうする?」
 組んでいた足を下ろして姿勢を正し、達彦は誠を見据えた。
「今が最悪一歩手前の状況だってのは判るだろう」
「……」
「あの子に安定してもらうには、池崎がいた方がいいんじゃないのか?」
「どうして俺にそれを言うんです?」
「あの子がどれだけおまえに気を使ってるかわからないわけじゃないだろう」
「そうだとしても、結局決めるのはあいつだ」
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