136 / 324
第二十四話 夜の女王
24-7.女神の逆鱗
しおりを挟む
「未定の部分が多いうちは混乱させたくなかったんだよ。お母さんは先走るときがあるから」
「まあ、そうだね」
「先月、亜紀子さんに山科に行ってもらった。お母さんにはそのときに話したよ」
「じゃあ、知らなかったのは私だけなんだね」
極上の笑顔に愛らしいと言えるほどの声色。だけど繋いだ手から感じるのは怒り。
以前だったら気づけなかったかもしれない。彼女の怒りの制裁を受けた後だからこそわかる。美登利は怒っている。
誠はそっと巽を窺う。気づいているのかいないのか、巽もまた朗らかに話し続ける。
「おまえに話さなかったのは、びっくりしてほしかったからだよ。ほんとは完成披露まで内緒にしたかったのだけど、まだまだ先が長いから先に言っておいたほうがいいって亜紀子さんが」
「……そう。もうじき榊さんが私のおねえさんになるんだね」
「彼女はおまえが大好きだからとても喜んでいるよ」
「…………」
繋いだ手はぴくりとも動かない。そのことが誠には恐ろしかった。
「あら、それじゃあ肝心なことは話さなかったんですか?」
夢見心地でカンバスに向かっていた亜紀子は、婚約者の報告に現実に引き戻された。
「駄目じゃないですか」
「だってね」
広縁の椅子に座ってくつろぎながら巽は彼らしくもなく言い訳をする。
「なんだかあの子が、とても怒っていて」
「怒る? どうしてですか?」
「どうしてだろう。僕なにかしたかなあ」
不安そうな彼の表情にきゅんとなって亜紀子はそばに近づく。
「心当たりあるんですか?」
「さあ……」
亜紀子は自分も考えながら彼の柔らかい髪を撫でる。何が女神様の逆鱗に触れたというのだろう。
「それにね、やっぱり話すときには亜紀子さんもいてくれた方が良いと思って。その方が説得力あるんじゃないかな」
「それはそうですね。わかりました」
「うん……」
「早く女神様のご機嫌が直るといいですね」
「うん」
微笑んで目を閉じる彼の顔をうっとりと亜紀子は眺める。もうじき自分の欲しいものが手に入る。対であるからこそ意味のあるもの。美しく歪なこの世で唯一のもの。
(力を合わせて、ふたりで手に入れましょうね)
あの大切な、宝物を。
「まあ、そうだね」
「先月、亜紀子さんに山科に行ってもらった。お母さんにはそのときに話したよ」
「じゃあ、知らなかったのは私だけなんだね」
極上の笑顔に愛らしいと言えるほどの声色。だけど繋いだ手から感じるのは怒り。
以前だったら気づけなかったかもしれない。彼女の怒りの制裁を受けた後だからこそわかる。美登利は怒っている。
誠はそっと巽を窺う。気づいているのかいないのか、巽もまた朗らかに話し続ける。
「おまえに話さなかったのは、びっくりしてほしかったからだよ。ほんとは完成披露まで内緒にしたかったのだけど、まだまだ先が長いから先に言っておいたほうがいいって亜紀子さんが」
「……そう。もうじき榊さんが私のおねえさんになるんだね」
「彼女はおまえが大好きだからとても喜んでいるよ」
「…………」
繋いだ手はぴくりとも動かない。そのことが誠には恐ろしかった。
「あら、それじゃあ肝心なことは話さなかったんですか?」
夢見心地でカンバスに向かっていた亜紀子は、婚約者の報告に現実に引き戻された。
「駄目じゃないですか」
「だってね」
広縁の椅子に座ってくつろぎながら巽は彼らしくもなく言い訳をする。
「なんだかあの子が、とても怒っていて」
「怒る? どうしてですか?」
「どうしてだろう。僕なにかしたかなあ」
不安そうな彼の表情にきゅんとなって亜紀子はそばに近づく。
「心当たりあるんですか?」
「さあ……」
亜紀子は自分も考えながら彼の柔らかい髪を撫でる。何が女神様の逆鱗に触れたというのだろう。
「それにね、やっぱり話すときには亜紀子さんもいてくれた方が良いと思って。その方が説得力あるんじゃないかな」
「それはそうですね。わかりました」
「うん……」
「早く女神様のご機嫌が直るといいですね」
「うん」
微笑んで目を閉じる彼の顔をうっとりと亜紀子は眺める。もうじき自分の欲しいものが手に入る。対であるからこそ意味のあるもの。美しく歪なこの世で唯一のもの。
(力を合わせて、ふたりで手に入れましょうね)
あの大切な、宝物を。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎
ミックスド★バスの第4弾です。
【R18】どうか、私を愛してください。
かのん
恋愛
「もうやめて。許してッ…」「俺に言うんじゃなくて兄さんに言ったら?もう弟とヤリたくないって…」
ずっと好きだった人と結婚した。
結婚して5年幸せな毎日だったのに――
子供だけができなかった。
「今日から弟とこの部屋で寝てくれ。」
大好きな人に言われて
子供のため、跡取りのため、そう思って抱かれていたはずなのに――
心は主人が好き、でもカラダは誰を求めてしまっているの…?
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【完結*R-18】あいたいひと。
瑛瑠
恋愛
あのひとの声がすると、ドキドキして、
あのひとの足音、わかるようになって
あのひとが来ると、嬉しかった。
すごく好きだった。
でも。なにもできなかった。
あの頃、好きで好きでたまらなかった、ひと。
突然届いた招待状。
10年ぶりの再会。
握りしめたぐしゃぐしゃのレシート。
青いネクタイ。
もう、あの時のような後悔はしたくない。
また会いたい。
それを望むことを許してもらえなくても。
ーーーーー
R-18に ※マークつけてますのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる