135 / 324
第二十四話 夜の女王
24-6.いけしゃあしゃあと
しおりを挟む翌朝、内庭の朝顔に水をやっていると誠が捜しに来た。
「今日はどうする? 仁は泳ぎたいって」
「それなら浜にいこうよ。紗綾ちゃんも砂でお城を作りたいって言ってた」
「誰が手伝うんだ?」
「そりゃあ……」
話していたら、巽も来た。
「今から少し出られる? 行きたいところがあるんだ」
「榊さんは?」
「今日は外に出たくないみたい」
「……」
大きなじょうろの水が空になるまで、目も上げないまま美登利は沈黙を通した。
水が尽きてから、美登利は片手を上げて誠の手を握った。
「誠も一緒でいいよね」
まさかそうくるとは思わなかったから、誠は驚く。
「ついてきてくれるでしょう?」
にこりと見上げられて誠は巽を見る。
「もちろんいいよ。一緒に行こう」
妹に劣らず完璧な笑顔で巽は答える。
淳史の軽自動車を借りて隣の高台の別荘地に向かった。ハイシーズンだというのに人っ子一人いない。
メインの緩い坂道を進んで、分岐を左に折れる。特に目立つ白い建物の前で巽はクルマを止めた。
まるで美術館のような四角い建物。窓のシャッターが全部下りているから誘拐犯でも立てこもっているように見える。一見して少し荒れているように見えた。
「実はね、買ったんだ。ここ」
オープン外構だから門扉のようなものはない。道路沿いに花壇のようなものがあって、ここに樹木を植えることで境界にしていたようだ。今は雑草しか生えていない。
「大々的にリフォームしないと住めないけれど」
「住むって……」
美登利が黙っているから誠が聞くしかない。
「今のところ決まっているのは僕と亜紀子さん」
「結婚するんですか?」
「うん」
罪のない笑顔で巽は微笑む。誠は全神経を隣の美登利に集中させていたが、繋いだままの手はピクリともしない。誠の方が身じろぎもできずに目線だけで隣を窺う。
「お父さんとこそこそしてたのはこのことだったんだね」
淳史から聞いて知っていたくせに、いけしゃあしゃあと朗らかに天使は言う。
「お母さんがずっと気にしてたんだよ。どうして黙ってたの?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる