130 / 324
第二十四話 夜の女王
24-1.スケッチ
しおりを挟む
三日後には普通に歩けるようになってやっと浜辺に下りることができた。
「泳ぐのはまだ駄目だよ」
やんわり巽に諭されて頷く。
紗綾と一緒に潮だまりを覗くとカニが何種類もいた。
「これってカニ?」
「そうだよ」
「これも、これも?」
可愛らしく髪を結いあげて帽子を被った紗綾は眉をひそめておそるおそる観察している。
「かわいいでしょ」
「私はあんまり」
紗綾の審美眼には敵わなかったらしい。パラソルの下で何やら話込んでいる綾小路たちの方へ行ってしまう。
美登利はしゃがんだまま膝に頬杖をついて向かいを見る。潮だまりの反対側では榊亜紀子が真剣な表情で写生をしていた。
「……」
言動が奇抜すぎる女性だがこの情熱は素敵だと思う。美登利にはないものだ。兄は彼女のそういうところに惹かれたのだろうか。
ため息が出そうになって堪えていると紗綾がとぼとぼ戻ってきた。
「難しい話ばっかしてつまんない」
「何やってんだか」
呆れて美登利が男たちを見たとき、亜紀子が満足げな息を吐いて顔を上げた。
「見てもいい?」
可愛らしく紗綾が訊くと歓喜してスケッチブックをこちらに寄越す。
紗綾が大きな瞳を更に丸くする。
「すごい」
美登利も横から覗き込む。潮だまりの生物が細かくスケッチされていた。まるで図鑑の挿絵のようだ。
「すごい」
美登利も感心して目を輝かせる。
「上手、なんて言ったら失礼かしら?」
「スケッチは絵描きの基本ですから」
亜紀子は当然のように笑ったが褒められて嬉しそうだ。
「こういう宇宙生物みたいなのって普段描かないフォルムだから楽しい」
「ナマコなんかも岩の裏側にいたりするんですよ」
「え、どれどれ」
海水に手を入れて美登利がよいしょと岩をひっくり返すと、アカナマコがうじゃうじゃ引っついていた。
紗綾が小さく悲鳴をあげて走って行ってしまう。途中で転びそうになってハッとしたが、うまく綾小路が抱き留めた。遠目に睨まれて美登利は肩をすくめた。
「お嬢様には刺激が強かったみたい」
亜紀子がまた不穏な目になって美登利を見る。
「あのう、みどちゃん。ぜひお願いが」
「……」
「背中を見せてほしいなーなんて」
「……」
「こう、思いっきり」
「泳ぐのはまだ駄目だよ」
やんわり巽に諭されて頷く。
紗綾と一緒に潮だまりを覗くとカニが何種類もいた。
「これってカニ?」
「そうだよ」
「これも、これも?」
可愛らしく髪を結いあげて帽子を被った紗綾は眉をひそめておそるおそる観察している。
「かわいいでしょ」
「私はあんまり」
紗綾の審美眼には敵わなかったらしい。パラソルの下で何やら話込んでいる綾小路たちの方へ行ってしまう。
美登利はしゃがんだまま膝に頬杖をついて向かいを見る。潮だまりの反対側では榊亜紀子が真剣な表情で写生をしていた。
「……」
言動が奇抜すぎる女性だがこの情熱は素敵だと思う。美登利にはないものだ。兄は彼女のそういうところに惹かれたのだろうか。
ため息が出そうになって堪えていると紗綾がとぼとぼ戻ってきた。
「難しい話ばっかしてつまんない」
「何やってんだか」
呆れて美登利が男たちを見たとき、亜紀子が満足げな息を吐いて顔を上げた。
「見てもいい?」
可愛らしく紗綾が訊くと歓喜してスケッチブックをこちらに寄越す。
紗綾が大きな瞳を更に丸くする。
「すごい」
美登利も横から覗き込む。潮だまりの生物が細かくスケッチされていた。まるで図鑑の挿絵のようだ。
「すごい」
美登利も感心して目を輝かせる。
「上手、なんて言ったら失礼かしら?」
「スケッチは絵描きの基本ですから」
亜紀子は当然のように笑ったが褒められて嬉しそうだ。
「こういう宇宙生物みたいなのって普段描かないフォルムだから楽しい」
「ナマコなんかも岩の裏側にいたりするんですよ」
「え、どれどれ」
海水に手を入れて美登利がよいしょと岩をひっくり返すと、アカナマコがうじゃうじゃ引っついていた。
紗綾が小さく悲鳴をあげて走って行ってしまう。途中で転びそうになってハッとしたが、うまく綾小路が抱き留めた。遠目に睨まれて美登利は肩をすくめた。
「お嬢様には刺激が強かったみたい」
亜紀子がまた不穏な目になって美登利を見る。
「あのう、みどちゃん。ぜひお願いが」
「……」
「背中を見せてほしいなーなんて」
「……」
「こう、思いっきり」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる