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第二十三話 接触
23-2.探検
しおりを挟む「ごめんね、美登利さんたちが来るって聞いてたの忘れてたみたい」
しゃあしゃあと森村拓己が言うのに、池崎正人は唇を噛んで友人を睨みつける。
「わかってておれを呼んだのか」
二年ぶりに訪れた森村拓己の実家。何度も滞在するうちに拓己の友だちとも仲良くなったから、また釣りに行こうと誘われた。お盆を避けての短い滞在ならと油断した。まさか拓己に仕組まれるなんて。
「だって、池崎はわかってないからさ」
肩をすくめてため息交じりに拓己は答える。
「結局小暮とも自然消滅でさ、須藤もあんなに気を使ってたのに」
「知るか」
「引きずるなとは言わないけど、現実をよく見た方がいいよ」
林の中から翡翠荘の方を見晴るかして拓己は言う。
「美登利さんはおまえなんかいなくても大丈夫なんだよ」
ぐっと唇を引き結ぶ正人を一瞥して拓己は斜面を下りていく。
「僕は約束通り出かけてくるから。おまえはそこで拗ねてれば」
まだ何もしてないというのに美登利がぐったりしているのを見て一ノ瀬誠は眉を上げる。
「何をへばってるんだ?」
「服装の自由を守り通したんだよ」
向こうでは、ぷりぷりしている紗綾を綾小路が宥めている。なんとなく想像がついて誠は苦笑いする。
「外行くか?」
「行こう行こう」
フロントの淳史に声をかけてから建物を出た。
敷地を出て坂を下り始めたところで林道から出てきた拓己とかち合う。
「拓己くん、元気?」
「こんにちは。元気です」
「釣りに行くの?」
「トモダチが船出してくれるんで海釣りに」
「いいなあ」
「言えばいつでも出してくれると思いますよ」
ソツなく応対しながら拓己は思い出したように眉を寄せた。
「美登利さんたち、行かないとは思いますけど、中学校の旧校舎には近づかないでくださいね」
「旧校舎?」
「こないだの暴風でやられていよいよ取り壊しが決まったんです。朽ちてたところが今にも崩れそうで危ないですからね、裏の山道もだいぶ荒れてるし」
「それはそれは」
「それじゃあ」
拓己を見送ってから美登利はにやりとする。
「紗綾ちゃんたち誘って探検に行こうじゃないの」
「……」
止めても無駄だから誠はただため息をつく。
ハイキングがてら山道を歩いて辿り着いてみると、本当にやばそうな建物だった。
「廃屋ね……」
可愛らしく登山帽を被った紗綾は目を丸くしてつぶやく。
「うちの屋敷も古いけど、人の手が入っているのとそうじゃないのと、こんなに違うのね」
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