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第二十一話 風雲

21-5.そんなふうに

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 思い出してしまった。ひとりで無茶して突っ走って彼に怒られたことを。どうして頼らないのかと。
「みんなに頼ることもしないとね。一人で生きてるわけじゃないものね」
「もちろんです! いっぱい頼ってください」
「いや、今日子ちゃんには十分してもらってるし」
「いいえ、まだまだです。一生離れませんから」
 やれやれと肩をすくめて宮前は先に料理を食べ始めた。

「私、不安だったんだ」
 食事の後、会計をしている美登利を店の外で待ちながら、今日子はぽつりと言った。
「池崎少年がいなくなって、美登利さんはまた不安定になるんじゃないかって。そしたら案外平気そうでほっとした。……でもね、それは違うって最近気づいたの。以前とは違う危うさで、美登利さんはやっぱりぐらぐらしてる。芦川みたいなおかしいのにかき乱されたら、向こう側へ落ちてしまうんじゃないかって」

 両手で自分の首筋を包みながら、今日子はふるふると首を横に振る。
「池崎少年がいてくれたら」
「そりゃあ誠にはあまりに酷だろ」
 宮前は幼馴染の味方をする。
「一ノ瀬くんじゃダメなんです。わかるでしょう?」
「そうは言ってもよ」

「私だって自分の好き嫌いだけで言ってるんじゃないですよ。一ノ瀬くんだけじゃすべては補いきれない。役割分担が必要なんです」
「そんなふうに割り切れるもんじゃないだろ」
「あの人を独り占めしようだなんてのが間違ってるんです」
「そんなのはわかってると思うぜ。あいつだってよ」
 らしくなく弱々しくつぶやく宮前に、さすがに今日子も口を噤んだ。




 昼時に賑わう食堂やラウンジを避けて、図書館の裏手のベンチでサンドイッチを食べた。そこからは付属の幼稚舎の校舎が見える。窓越しに七夕の笹飾りが揺れているのがわかった。そうこうしていると幼児たちの歌声まで聞こえてくる。
 人気がないから帽子を脱いで生ぬるい風に吹かれながら美登利は微笑む。

「今日子ちゃんは短冊にどんな願い事を書いてた?」
「そうですねぇ、人並みに『お嫁さんになりたい』とかだった気がします。美登利さんは?」
「どうだったかな」
 幼児たちの歌声を聞きながら睫毛を伏せる美登利に、小首をかしげて今日子は言う。
「飲み物を買ってきます」
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