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第二十一話 風雲
21-4.珍しい
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「おっかねえ女」
金指がぼやきながら芦川の顔の前で手をひらひらする。
「志岐琢磨の愛人だって噂もある。関わらない方が身のためっすよ。……芦川さん?」
「すっげえ……」
ようやくのことで声を押し出す。それだけ度肝を抜かれた。想像をはるかに超えた美しさ。それ以上に、あの瞳にゾクゾクした。
「すげえ」
自分の嗅覚に間違いはなかった。自画自賛も込めて芦川はつぶやく。最上級の女。ケンカより夢中になれそうなものを見つけてしまった。
「すげえ」
目のまわりを紅潮させて芦川は駄目押しとばかりにもう一度つぶやいた。
「よかったんですか?」
「あの男しつこそうだもん。それでいて気がすめばどうでもよくなるタイプと見た」
「それは確かに……」
だけどあの惚けた表情には一抹の不安を覚える。美登利に挑んでくる男の特徴として、自信家というのが挙げられる。芦川はそれに当てはまるのではないか。
「まあまあ、坂野女史。心配ばっかしてもしょうがねえだろ」
メニューを見ながら宮前がぼやく。彼が腹が減ったと言い出したので、電車に乗る前に駅前のファミレスに入ったところだった。
「こいつに奢ってもらおうぜ」
「今日子ちゃんにはごちそうするけど」
「いえ、そんな……」
結局なんの役にも立たなかったというのに。
オーダーをすませた後、隣に座った美登利が不意に今日子の顔に手を伸ばしてくいっと自分の方に向けた。
「ねえ、今日子ちゃん。私がなんて言ったか覚えてる?」
優しい声音だが確実に怒っている。
「要約すると、手を出すな、と言ってました」
「だよねぇ」
「すみません」
頬を両手で挟まれたまま今日子はしょんぼり目を伏せる。が、内心ではいつにない密着度合いに心臓がばくばくいって壊れそうだった。これはある意味拷問だ。
「悪い子」
間近で囁かれ、じっとしていられなくなりそう。
「こんなことは二度とないように」
「はい……」
恥じらって頷く今日子に失笑しながら宮前は頬杖をつく。
「にしても珍しいな。おまえが自分のことで俺やタクマさんを頼るなんて」
「自分でカタ付けるつもりだったよ。でもさ……」
今日子から手を離して美登利は体の向きを戻す。
金指がぼやきながら芦川の顔の前で手をひらひらする。
「志岐琢磨の愛人だって噂もある。関わらない方が身のためっすよ。……芦川さん?」
「すっげえ……」
ようやくのことで声を押し出す。それだけ度肝を抜かれた。想像をはるかに超えた美しさ。それ以上に、あの瞳にゾクゾクした。
「すげえ」
自分の嗅覚に間違いはなかった。自画自賛も込めて芦川はつぶやく。最上級の女。ケンカより夢中になれそうなものを見つけてしまった。
「すげえ」
目のまわりを紅潮させて芦川は駄目押しとばかりにもう一度つぶやいた。
「よかったんですか?」
「あの男しつこそうだもん。それでいて気がすめばどうでもよくなるタイプと見た」
「それは確かに……」
だけどあの惚けた表情には一抹の不安を覚える。美登利に挑んでくる男の特徴として、自信家というのが挙げられる。芦川はそれに当てはまるのではないか。
「まあまあ、坂野女史。心配ばっかしてもしょうがねえだろ」
メニューを見ながら宮前がぼやく。彼が腹が減ったと言い出したので、電車に乗る前に駅前のファミレスに入ったところだった。
「こいつに奢ってもらおうぜ」
「今日子ちゃんにはごちそうするけど」
「いえ、そんな……」
結局なんの役にも立たなかったというのに。
オーダーをすませた後、隣に座った美登利が不意に今日子の顔に手を伸ばしてくいっと自分の方に向けた。
「ねえ、今日子ちゃん。私がなんて言ったか覚えてる?」
優しい声音だが確実に怒っている。
「要約すると、手を出すな、と言ってました」
「だよねぇ」
「すみません」
頬を両手で挟まれたまま今日子はしょんぼり目を伏せる。が、内心ではいつにない密着度合いに心臓がばくばくいって壊れそうだった。これはある意味拷問だ。
「悪い子」
間近で囁かれ、じっとしていられなくなりそう。
「こんなことは二度とないように」
「はい……」
恥じらって頷く今日子に失笑しながら宮前は頬杖をつく。
「にしても珍しいな。おまえが自分のことで俺やタクマさんを頼るなんて」
「自分でカタ付けるつもりだったよ。でもさ……」
今日子から手を離して美登利は体の向きを戻す。
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