上 下
106 / 324
第十九話 春に眠る

19-4.気にしすぎ

しおりを挟む
「おすすめプランとやらを見せられたけど気に入らない。かと言って花のことなんかわからないし。協力してくれる?」
「園芸に詳しい友だちに相談してみます」
 了解をもらって写真を撮りながら訊いてみる。
「どんなイメージが良いかだけでもありません? 森林の中とかお花畑な感じとか。可愛らしくがいいとか、癒される感じがいいとか」

「抽象的でいいの?」
「もちろん」
「苦労が多かったと思うから、とにかく静かに眠ってほしい。そうだな、春に包まれる感じで……」
 微笑む達彦を物珍しく思って美登利は見つめる。泣き笑いのようにも見えて、無神経かとも思ったが目を逸らさなかった。

「伝わるかな」
 にこりと笑って美登利は頷く。
「おかあ様、喜ぶでしょうね」
 四季折々の花々が咲き乱れる墓地を想像してみて、なんだか無性に羨ましくなった。そんな場所で眠るのは、どんな心地がするだろう。

「お墓参りのお手伝いをしたとき思ったんだよね。お嫁にいったら知らない人ばかりのお墓に入らなきゃならないでしょう。ちょっと嫌だなって」
「それならここに俺と入る?」
 美登利はカメラを構えた格好のまま達彦を振り返る。

「……それって、いろいろ、途中経過を飛ばしてない?」
「だな。忘れてくれ」
 本当に珍しい。この人でも雰囲気に流されることがあるのだと驚く。そうでなくとも最近の彼は角が取れすぎなきらいがあって逆に警戒してしまう。
 写真を一通り撮り終わり、携帯をしまいながら思っていたらやっぱり斬り込まれた。

「巽は何を考えてる?」
 突然尋ねられて美登利は苦笑する。
「いきなりなに?」
「あいつの考えが読めるのは君だけだろ。最近の奴はおかしすぎて俺にはもうお手上げだ。わかってることがあるなら教えてくれ」

「そりゃあ、私もおかしいけれど、だからってお兄ちゃんのこと全部わかってるわけじゃない」
「やめてくれ」
「どうしてそんなに気にするの? 私たちがおかしなところで迷惑かけるわけじゃなし、あなたはお兄ちゃんを気にしすぎ」
「やめてくれ!」
 低く吐き捨てて余裕のない目になる彼を美登利は泰然と見据える。

「裁いてるつもりならそれでもいい。だけど俺は不安なんだ。君がいなくなるのだけは耐えられない」
 この人は何をどこまでわかっているのかと思った。かつてあれほど自分を傷つけ追い詰めた鋭利さをかなぐり捨てて、何が知りたいというのだろう。それともこれも計算なのだろうか、より優位に立つための伏線なのか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...