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第十八話 心の欠片
18-6.思うことさえ憚られる
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「破滅的になっちまうことだってある。それこそ悲しいことにな」
それならこれも悲しみからくる衝動なのだろうか。苛立ち、叫び出したいような欲求、強いて言うなら怒りに近い。
「……ぎゅってして」
ねだると琢磨はしょうがねえなあとハグしてくれた。兄とも誠とも違う男臭い腕だ。
ぞくぞくと駆け上がってくる衝動に彼女は逆らわなかった。
後ろから抱きしめながら首元に唇を押し当てていると、美登利は忍び笑いをもらした。
「ひげがくすぐったい」
「そうか」
伸びてきたひげが当たるように背中に頬ずりすると身を捩って悦んだ。
彼女がこうして自分に抱かれるのはお手玉をするくらいの気軽さなのだろう。自分は彼女を愛していないから気負うものがない。琢磨はそう理解している。
皆が自分はこの子のことを妹のように思っていると認識しているはずだ。その通り。妹みたいに可愛いと思う。そうはいっても所詮は他人だからこうして抱くこともできる。
巽はどこまで、と彼は思う。思えば奴は出会ったときからおかしかった。妹に触ろうとしたからと言ってそいつの腕を折ろうとしたり、そうかと思えば大事なその妹を置いて急に留学してしまったり。
琢磨だって思わずにはいられない。あの時期さえなければ腕の中の小さなこの子は今だって、春の日差しのように笑っていたかもしれない。
今よりずっと安定して、こんなふうにふらふら彷徨うことだってなかったかもしれない。いずれはこうなってしまっていたのかもしれないが。
巽は何がしたいのだろう。婚約間近な恋人がいたところで妹への態度は変わらない。達彦が言った通りよりエスカレートしている。まるで本命は彼女だとでもいうように。
一瞬よぎった考えにぞっとして琢磨は彼女の頭を撫でる。
凡人の自分には巽の考えなんて読めはしない。最初から奴は壊れている。達彦なら何か感づいているかもしれないが自分は知りたくもない。
小さな頭を抱え込んで撫でながら琢磨はそれでも思ってしまう。兄からこんなふうにされたいと美登利は望んだりするのだろうか……。
いや、と琢磨は胸の内で首を振る。それこそ思うことさえ憚られる禍言であるような気がして。
それならこれも悲しみからくる衝動なのだろうか。苛立ち、叫び出したいような欲求、強いて言うなら怒りに近い。
「……ぎゅってして」
ねだると琢磨はしょうがねえなあとハグしてくれた。兄とも誠とも違う男臭い腕だ。
ぞくぞくと駆け上がってくる衝動に彼女は逆らわなかった。
後ろから抱きしめながら首元に唇を押し当てていると、美登利は忍び笑いをもらした。
「ひげがくすぐったい」
「そうか」
伸びてきたひげが当たるように背中に頬ずりすると身を捩って悦んだ。
彼女がこうして自分に抱かれるのはお手玉をするくらいの気軽さなのだろう。自分は彼女を愛していないから気負うものがない。琢磨はそう理解している。
皆が自分はこの子のことを妹のように思っていると認識しているはずだ。その通り。妹みたいに可愛いと思う。そうはいっても所詮は他人だからこうして抱くこともできる。
巽はどこまで、と彼は思う。思えば奴は出会ったときからおかしかった。妹に触ろうとしたからと言ってそいつの腕を折ろうとしたり、そうかと思えば大事なその妹を置いて急に留学してしまったり。
琢磨だって思わずにはいられない。あの時期さえなければ腕の中の小さなこの子は今だって、春の日差しのように笑っていたかもしれない。
今よりずっと安定して、こんなふうにふらふら彷徨うことだってなかったかもしれない。いずれはこうなってしまっていたのかもしれないが。
巽は何がしたいのだろう。婚約間近な恋人がいたところで妹への態度は変わらない。達彦が言った通りよりエスカレートしている。まるで本命は彼女だとでもいうように。
一瞬よぎった考えにぞっとして琢磨は彼女の頭を撫でる。
凡人の自分には巽の考えなんて読めはしない。最初から奴は壊れている。達彦なら何か感づいているかもしれないが自分は知りたくもない。
小さな頭を抱え込んで撫でながら琢磨はそれでも思ってしまう。兄からこんなふうにされたいと美登利は望んだりするのだろうか……。
いや、と琢磨は胸の内で首を振る。それこそ思うことさえ憚られる禍言であるような気がして。
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