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第十七話 天使の偶像
17-4.なんていうことを
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雨風でこうなったとも思えない。一気にきな臭くなってきた。早く出た方が良いかもしれない。
かたんと中で音が響いて美登利はとっさに視線を走らせる。中は園児たちの教室のようだ。
奥の方の出入り口の引き戸は片側が開いたままになっていて、視界の下方で何かが翻った。
美登利は身を屈めて窓の穴を潜り抜け中に入った。内部は思ったほど傷んでいない。
教室を横切って廊下を見る。軽い足音が更に左側に遠のいていく。
追いかけていくと突き当りは広い部屋だった。職員室だったのだろうか。入ってすぐ右側が給湯スペースになっているようだった。
そうっとそっちへ入ってみる。流し台の向こう。たぶん冷蔵庫を置くスペースだったのだろうそこに、子猫たちが丸まっていた。傍らで母猫が警戒の目を美登利に向けている。
「……」
そこに缶詰のエサが置かれているのを見つけて、美登利は音もなく後退った。
猫ばかりじゃない。やっぱりここまで入り込んでいる人間がいる。猫たちには悪いが持ち主に報告しなければ。
そのとき横の流し台でかさかさと嫌な音がした。ぞわっと肌が総毛立つ。
不法侵入のならず者だろうが、おばけだろうが、美登利は怖くはない。怖いとすればただ一つ、てかてかの羽に長い触角を持つゴのつく生き物……。
(やだやだやだ……)
逃げ出したいのに身動きした瞬間そいつが飛びかかってくる気がして足が踏み出せない。固まっていたら足元を影がよぎった。
「……!!」
声もなく悲鳴をあげてつんのめるようにして駆け出す。
見るのが怖くて目をつぶっていたらドスンと誰かにぶつかった。
「大丈夫?」
よく知っている声。
「お兄ちゃん」
ぎゅっとしがみつく。
「あれがいた。あれ! やだやだやだ……」
無言で肩を抱かれて引っ張っていかれる。
目蓋の向こうが明るくなって、南側の教室まで戻ってきたことがわかった。
少し落ち着いてようやく目を開ける。
まぶしい視界の中に兄の色素の薄い柔らかい髪が見えるだろうと思ったのに、目に入ったのはひたすら苦笑いしている村上達彦の顔だった。
「…………」
ざーっと血の気が引いた。なんていうことをしてしまったのだろう。こんなことは初めてだ。
しがみついていた手を離そうとしたが、ぐっと腕ごと引き留められた。
「どうして巽だと思ったの?」
苦笑いを引っ込めて達彦は彼女の瞳を覗き込んでくる。
かたんと中で音が響いて美登利はとっさに視線を走らせる。中は園児たちの教室のようだ。
奥の方の出入り口の引き戸は片側が開いたままになっていて、視界の下方で何かが翻った。
美登利は身を屈めて窓の穴を潜り抜け中に入った。内部は思ったほど傷んでいない。
教室を横切って廊下を見る。軽い足音が更に左側に遠のいていく。
追いかけていくと突き当りは広い部屋だった。職員室だったのだろうか。入ってすぐ右側が給湯スペースになっているようだった。
そうっとそっちへ入ってみる。流し台の向こう。たぶん冷蔵庫を置くスペースだったのだろうそこに、子猫たちが丸まっていた。傍らで母猫が警戒の目を美登利に向けている。
「……」
そこに缶詰のエサが置かれているのを見つけて、美登利は音もなく後退った。
猫ばかりじゃない。やっぱりここまで入り込んでいる人間がいる。猫たちには悪いが持ち主に報告しなければ。
そのとき横の流し台でかさかさと嫌な音がした。ぞわっと肌が総毛立つ。
不法侵入のならず者だろうが、おばけだろうが、美登利は怖くはない。怖いとすればただ一つ、てかてかの羽に長い触角を持つゴのつく生き物……。
(やだやだやだ……)
逃げ出したいのに身動きした瞬間そいつが飛びかかってくる気がして足が踏み出せない。固まっていたら足元を影がよぎった。
「……!!」
声もなく悲鳴をあげてつんのめるようにして駆け出す。
見るのが怖くて目をつぶっていたらドスンと誰かにぶつかった。
「大丈夫?」
よく知っている声。
「お兄ちゃん」
ぎゅっとしがみつく。
「あれがいた。あれ! やだやだやだ……」
無言で肩を抱かれて引っ張っていかれる。
目蓋の向こうが明るくなって、南側の教室まで戻ってきたことがわかった。
少し落ち着いてようやく目を開ける。
まぶしい視界の中に兄の色素の薄い柔らかい髪が見えるだろうと思ったのに、目に入ったのはひたすら苦笑いしている村上達彦の顔だった。
「…………」
ざーっと血の気が引いた。なんていうことをしてしまったのだろう。こんなことは初めてだ。
しがみついていた手を離そうとしたが、ぐっと腕ごと引き留められた。
「どうして巽だと思ったの?」
苦笑いを引っ込めて達彦は彼女の瞳を覗き込んでくる。
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