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第十七話 天使の偶像
17-1.「見たいなあ、顔」
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「あ、ナナちゃん見っけ。今日はなに読んでるの?」
学内図書館前の壁際のベンチで声をかけられた。いつかのテニスサークルの男子学生だ。今日も皆とおそろいのジャージを着ている。
「それ、アンナ・クーポーになぞらえて呼んでるの?」
「そ、ピッタリでしょ」
「随分だね、何も知らないくせに」
伏し目がちに帽子で顔を隠したまま言ってやると、相手が屈託なく笑った気配がした。
「オレ鼻が利くからわかるんだ。そんな格好してるけど君、相当美人さんでしょ、男が群がるタイプの。そういう匂いがするよ」
美登利は黙って読書に戻る。
「マルグリットのほうがよかった?」
どっちにしろ娼婦なのではないか。内心呆れていると、本を借りに行っていた坂野今日子が戻ってきてくれた。
「また、あなたですか」
目が完全に吊り上がって怒りで爛々としている。
「お友だちも美人だけど、君はもっとでしょ。見たいなあ、顔」
イラっとした今日子が彼に足払いをかける。がくっと崩れた彼に上から言い捨てた。
「今度またこの人に近づいたら、こんなものじゃすみませんよ」
行きましょうと美登利を促す。本を鞄に入れて立ち上がる。
こっちを見もしないですたすた歩き去る姿に彼は唸る。
「歩き方もカッコイイんだよなあ」
「芦川くん」
呼ばれて彼は集団の方に戻る。
「何やってるの?」
「別に」
「あれ国文学科の子だよね。二年だっけ」
「いっこ下か」
「興味あるの?」
「うん」
「ヘンな子だよ。ほとんど学校来ないし、帽子で顔隠して、あの友だちがずっとガードしてるの」
「あたし顔見たよ。美人だけどそんな、もったいぶるほどじゃあ」
「あ、オレ、女の子同士の外見の評価は信用しないことにしてるから」
「え?」
「だって君ら、コンパとかでカワイイ子だよって言って、ほんとに可愛い子を連れてきたことないじゃない」
「な……っ!」
「はは、オレは自分の目で見て評価するから。見たいなあ、顔」
街が賑やかだと思ったら今年もウォークラリー大会が催されているようだった。ランチ用のパンを買いに行った先でポスターを見つける。
「美登利ちゃん今年は出ないの?」
「去年は頼まれたから」
「今年も副賞はあのお店の引換券だよ」
「なら出ればよかったかなあ。でもパートナーがいないや」
学内図書館前の壁際のベンチで声をかけられた。いつかのテニスサークルの男子学生だ。今日も皆とおそろいのジャージを着ている。
「それ、アンナ・クーポーになぞらえて呼んでるの?」
「そ、ピッタリでしょ」
「随分だね、何も知らないくせに」
伏し目がちに帽子で顔を隠したまま言ってやると、相手が屈託なく笑った気配がした。
「オレ鼻が利くからわかるんだ。そんな格好してるけど君、相当美人さんでしょ、男が群がるタイプの。そういう匂いがするよ」
美登利は黙って読書に戻る。
「マルグリットのほうがよかった?」
どっちにしろ娼婦なのではないか。内心呆れていると、本を借りに行っていた坂野今日子が戻ってきてくれた。
「また、あなたですか」
目が完全に吊り上がって怒りで爛々としている。
「お友だちも美人だけど、君はもっとでしょ。見たいなあ、顔」
イラっとした今日子が彼に足払いをかける。がくっと崩れた彼に上から言い捨てた。
「今度またこの人に近づいたら、こんなものじゃすみませんよ」
行きましょうと美登利を促す。本を鞄に入れて立ち上がる。
こっちを見もしないですたすた歩き去る姿に彼は唸る。
「歩き方もカッコイイんだよなあ」
「芦川くん」
呼ばれて彼は集団の方に戻る。
「何やってるの?」
「別に」
「あれ国文学科の子だよね。二年だっけ」
「いっこ下か」
「興味あるの?」
「うん」
「ヘンな子だよ。ほとんど学校来ないし、帽子で顔隠して、あの友だちがずっとガードしてるの」
「あたし顔見たよ。美人だけどそんな、もったいぶるほどじゃあ」
「あ、オレ、女の子同士の外見の評価は信用しないことにしてるから」
「え?」
「だって君ら、コンパとかでカワイイ子だよって言って、ほんとに可愛い子を連れてきたことないじゃない」
「な……っ!」
「はは、オレは自分の目で見て評価するから。見たいなあ、顔」
街が賑やかだと思ったら今年もウォークラリー大会が催されているようだった。ランチ用のパンを買いに行った先でポスターを見つける。
「美登利ちゃん今年は出ないの?」
「去年は頼まれたから」
「今年も副賞はあのお店の引換券だよ」
「なら出ればよかったかなあ。でもパートナーがいないや」
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