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第十三話 愛する人

13-2.「おい」

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「仕事といやあ巽さんは何してんの? しょっちゅうふらふらして、どう考えても普通の勤め人じゃないよな」
「さあ」
「おまえなあ……」
「金の稼ぎ方なんてなぁ、いろいろあんのさ」
 琢磨が言うとリアルになりすぎて怖い。

「そろそろ行かないと講義始まるよ」
 促されて正人はため息をつく。勉強が嫌なのではない。彼女と離れるのが寂しい。
「泣いても笑ってもあと二か月だよ」
「本命受かればね」
「大丈夫だよ」
 あなたがそう言うならなんだってできる。

「全部終わったらたくさん遊ぼう」
 外まで送り出してくれながら美登利が言った言葉に正人は目の色を変える。
「一緒に出かけるってこと?」
「うん。デートしようか」
 マジですか。
「ぜったい本命受かって二月で終わらせる」
「頑張って」

 手を振って正人を見送り美登利は白い息を吐く。季節はもう冬。何かと人恋しくなる季節、猫も杓子も相手を求める時期だ。
「そろそろツリーを出さない?」
「そうだな」
 琢磨が頷いてさっそく物置に取りに行く。
「やだやだ、毎年この時期はよ」
 宮前が吐き捨てるのに、美登利はちょっと興味を引かれて隣に座って訊いてみた。

「あんただって誘われたりしないわけ?」
「するに決まってんだろコラ」
「中にはいい子だっているでしょうに」
「この時期告白してくる奴は特に信用しないことにしてる」
「意外とシビアだね」
「男は傷つきたくないからシビアになるんだよ」
 ふんと鼻を鳴らす宮前を、美登利は本当に意外そうな面持ちで見る。

「んな青臭いこと言ってるから女のひとりもいないんだろ」
 ツリーの箱を抱えて戻ってきた琢磨が更に上から鼻を鳴らす。
「ヒドイっすよ、タクマさん」
「あんたイブには毎年ここにいるんだもんね」
「おい」




 呑気に笑っていたらあっという間に日々はすぎて、
「帰りたくないな」
 池崎正人はしきりにつぶやきながら実家に戻っていき、入れ替わりに一ノ瀬誠が帰省した。

「今年はやっとみんなでクリスマスできるね」
 翡翠荘のバイトや誠の受験で顔ぶれはそろわなかったが、もともとクリスマスには仲間内でロータスに集まってパーティしていた。琢磨も楽しくなってきたらしく、それは年々豪華になっている。

「そうだな」
 頷いてマフラーを巻き直す誠を見上げて美登利は微笑む。去年彼女があげたウールのマフラーだ。
「あったかい?」
「うん」
 笑って手をつなぐ。何かと人恋しくなる季節、猫も杓子も相手を求める。
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