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第十二話 因果応報
12-3.ラブレター
しおりを挟む先にシャワーから出てベッドの上でさっき拾った赤いカエデの葉っぱを眺めていたら、誠の鞄の中で携帯が鳴った。すぐに音は止まったがバイブの振動で倒れた鞄から本や財布が飛び出す。
うつ伏せに寝そべったままベッドから手を伸ばして持ち上げようとしたとき、分厚い専門書の間から可愛らしい色の封筒が覗いているのを見つけてしまった。
「勘弁してよ……」
しばし顔を伏せて考える。痛恨の失態というやつではないかい? これは。
(わざとだったら笑える)
むしろそれくらいのことをしてもらったほうが気が楽なのだが。
また身勝手なことを考えてしまって美登利は目を伏せる。
そうっと本を開いて手紙を取り上げる。ルームライトの灯りにすかしてみる。便箋の文字が透けて見えたが読み取るまではできない。
糊付けした封がカッターで切られている。兄と違って誠はきちんと読んだようだ。
兄の鞄からラブレターを見つけたときのことを思い出す。
あのときは自分もまだ子どもだった。あんなものの存在自体が許せなくて兄の前で破り捨てた。
(お兄ちゃんはあのときどう思ったんだろう)
そんなこと考えたこともなかった。
そうっと手紙を本の間に戻して鞄を置き直した。誠が出てくる。
「携帯鳴ってたよ」
いつものように頭を拭いてあげながら教える。
「……仁だ」
「メール?」
『勝負だ! 負けたら下僕』
「あほだなー」
「勝っても負けても状況は同じだろうに」
「言ってる間に冬休みだよ」
「雪遊びしたいんだろ?」
「そうそう。そりで滑って、雪だるまも作ろう」
楽しい話をしながらも、彼女の頭の中は悪だくみでいっぱいだった。
* * *
よそ見をして歩いていたから人にぶつかってしまった。帽子を目深に被った同じ年くらいの女の子。
「すみません」
「ずっとあの人のこと見てるね」
「え……」
「ごめんなさい、可愛いなって思って。好きなの?」
「あ、ええ。まあ……」
帽子で顔はよく見えない。知らない相手なはずだ。だけど奇妙な雰囲気に中てられて、ぺらぺら話してしまっていた。
「手紙を渡して告白したけど、カノジョがいるって振られちゃった」
「でもまだ好きなんだ?」
「ええ……」
「あきらめることないんじゃない? また告白したら?」
形のいいくちびるが優しく微笑んでささやく。
「ずっと彼女と上手くいくとは限らないよ。チャンスがあるかも」
「あ……」
「頑張って」
帽子の下から印象深い瞳がちらっと覗いて引き込まれるように頷いていた。
「そうだね、頑張る」
彼の方を少し振り返る。その間に帽子の女の子の姿は見えなくなっていた。
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