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第七話 東奔西走

7-5.愛する家

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 俯く正人に美登利は確認する。
「わかるよね? あなたなら上手くできるよ。お父さんともう一度話し合ってみて」
「うん……」
 よし、と美登利はにっこりした。
「良かった、これでみんな安心だね」

 少し言葉をとぎらせた後、彼女は口調を変えて言い添えた。
「小暮さんが心配して私のところに来たの。すごく取り乱してた」
「また余計なことを……」
「そんなふうに言ったらダメ。ひねくれたふうに取らないで。本当に心配してたんだから」
「なんでわざわざそんなこと言うの?」
 美登利は黙って身を引こうとする。正人は慌てて呼び止めた。

「先輩」
 窓の隙間から指をのばす。彼女も手を伸ばしてその指に触れた。
「キスしたいな」
「今度会ったらね」
 微かに笑って手を放すと、美登利は身軽く木から飛び下りる。相変わらず羽でも生えてるみたいな身の動き。
 滑るように庭を走って行ってしまうのを正人はただ見送った。

 元の生垣の場所まで戻るとそこから見える母屋の影に人影が見えた。一瞬ぎくりとしたが、ほっそりとしたその女性はその場で美登利に向かって頭を下げて見せる。
「……」
 美登利も丁寧にお辞儀をした後、垣根の隙間をくぐり抜けた。
 そのまま走り続けてバス停まで戻ったところでようやく息をついた。広々とした畑の向こうに池崎家の母屋の屋根がまだ見える。

 携帯を取り出して正人の兄の勇人に任務完了とお礼のメールを打っていると、受信の知らせが届いた。
 送信メールを送ってしまってから受信フォルダを開く。
 画像だけが添付されたメール。小さな小さなアジを釣りあげて胸を張っている宮前の写真だ。

『大漁だね』
 返信すると、別のアドレスからまた画像が届いた。似たり寄ったりの大きさのアジをかざして誠が苦笑いしている。
『どんぐりの背比べ』
 送ってやると宮前のアドレスからすぐに返事が来た。
『キャッチアンドリリース』

 はは、と笑ってため息をつく。
 誰が何を思っていても変わらないものは変わらない。それがなければ絶望しか残らない。
 自分は自分の愛する家へ。早く帰って、母親とおしゃべりがしたくなった。
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