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第七話 東奔西走
7-4.親だって完璧じゃない
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真横には大きなカシの木。美登利は迷わず登り始めた。
土蔵の二階の窓になんとか近づく。近代的なつくりで格子の内側にガラスがはまっている。
美登利は手を差し入れてそっと叩いてみた。不規則に何度か繰り返す。
すると窓の隅に人の顔がのぞいた。
「いた」
美登利がにっこりして覗き込むと正人は慌てて窓を開けた。片開き窓で、風通しのためか少しだけ開くようになっているようだ。
「何やってんの!?」
心底驚いた顔で正人が叫ぶ。
「お兄さんに聞いたよ。お父さんとケンカしたって?」
「危ないよ、先輩」
「大丈夫」
「カメラだってあるのに」
「大丈夫、お母さんがうまくやってくれてる」
「え……」
「やさしいお母さんだね。お父さんに怒鳴られながら、何度も取りなそうとしてくれてるって」
「親父は頑固なんだ。自分勝手で誰の言うことも聞かない」
「それでケンカして怒らせて閉じ込められちゃったの?」
「おれは兄貴みたいに流されるのはごめんだ」
「池崎くんも頑固だからなあ」
こんな状況なのにおもしろそうに笑っている美登利を、正人は改めて見つめる。
「先輩ってほんと滅茶苦茶」
「そう?」
「森村のときもこうやって助けたの?」
「あったね、そんなこと。よく知ってるね」
「うん」
「出してほしい?」
「そりゃあ」
「でもさ、私ももう子どもじゃないからそれはできないな」
美登利の返事に正人は目を瞠る。
「ここから出るなら、自分でちゃんと出てきてほしいな」
――自発的に努力するのか、無理やりまわりに動かしてもらうのか。どっちを選ぶ?
出会ったばかりの頃、問われたことを思い出す。
「仲直りしなよ。言いすぎましたごめんなさいって」
「いやだ」
眉根を寄せる正人に美登利はくすりと笑って見せる。
「親だって完璧じゃないんだよ。なんでも親のせいにしたら駄目。甘えたら駄目」
「そんなこと……」
「甘えがあるからぶつかっちゃうんだよ。ほんの少し、引いてあげれば上手くいくことなんだよ。そういう人を、私はよく知ってる」
「……」
「もうなんでも自分で決められるって思ってるでしょう? でも私たちはまだ、もう少し大人の手を借りなきゃならない。自分の意見を聞いてもらいたいなら引くべきところは引かないと。取引だよ、これは」
土蔵の二階の窓になんとか近づく。近代的なつくりで格子の内側にガラスがはまっている。
美登利は手を差し入れてそっと叩いてみた。不規則に何度か繰り返す。
すると窓の隅に人の顔がのぞいた。
「いた」
美登利がにっこりして覗き込むと正人は慌てて窓を開けた。片開き窓で、風通しのためか少しだけ開くようになっているようだ。
「何やってんの!?」
心底驚いた顔で正人が叫ぶ。
「お兄さんに聞いたよ。お父さんとケンカしたって?」
「危ないよ、先輩」
「大丈夫」
「カメラだってあるのに」
「大丈夫、お母さんがうまくやってくれてる」
「え……」
「やさしいお母さんだね。お父さんに怒鳴られながら、何度も取りなそうとしてくれてるって」
「親父は頑固なんだ。自分勝手で誰の言うことも聞かない」
「それでケンカして怒らせて閉じ込められちゃったの?」
「おれは兄貴みたいに流されるのはごめんだ」
「池崎くんも頑固だからなあ」
こんな状況なのにおもしろそうに笑っている美登利を、正人は改めて見つめる。
「先輩ってほんと滅茶苦茶」
「そう?」
「森村のときもこうやって助けたの?」
「あったね、そんなこと。よく知ってるね」
「うん」
「出してほしい?」
「そりゃあ」
「でもさ、私ももう子どもじゃないからそれはできないな」
美登利の返事に正人は目を瞠る。
「ここから出るなら、自分でちゃんと出てきてほしいな」
――自発的に努力するのか、無理やりまわりに動かしてもらうのか。どっちを選ぶ?
出会ったばかりの頃、問われたことを思い出す。
「仲直りしなよ。言いすぎましたごめんなさいって」
「いやだ」
眉根を寄せる正人に美登利はくすりと笑って見せる。
「親だって完璧じゃないんだよ。なんでも親のせいにしたら駄目。甘えたら駄目」
「そんなこと……」
「甘えがあるからぶつかっちゃうんだよ。ほんの少し、引いてあげれば上手くいくことなんだよ。そういう人を、私はよく知ってる」
「……」
「もうなんでも自分で決められるって思ってるでしょう? でも私たちはまだ、もう少し大人の手を借りなきゃならない。自分の意見を聞いてもらいたいなら引くべきところは引かないと。取引だよ、これは」
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