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第六話 紙の月

6-6.あなたが信じてくれるなら

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「今はあなたの話をしてるんです」
「オーレンカか、それも良かったかもな。君に会ってなければね」
「それって、私のせいなの?」
 さすがに目を伏せずにいられなかった。
 達彦も顔を隠して俯く。
「悪い。失言だった」
 いいや、どうせ皆にそう思われている。暗い気持ちで美登利は逆に視線を上げる。どうせ全部、自分が悪いのだ。

 テーブルの上にガラス石の即席インテリア。

 ――傷ついたならそれはおれのせい。先輩の責任なんかじゃない。

 そう言ってくれた彼も、いつかは自分を責めるようになる。そうなる前に。

 琢磨が戻ってくるまで重苦しい沈黙が続いた。




『今やってる特別展が見たいから付き合って』
 珍しく着信があったと思ったら急な呼び出しで、一ノ瀬誠は頭が痛くなる。
『無理しなくていいよ。ダメなら一人で行くし』

 この都会であんなのを野放しにできるわけがない。駆けつけると、噴水のある広場の通り際でひっそりと彼女が待っているのがわかった。帽子で顔を隠しているが体つきでわかる。
 それにしても、と誠は内心感心した。気配を隠すのが随分うまくなったものだ。たいして目立っていない。

「やあやあ、元気みたいだね」
「急にお呼び立てして申し訳ありませんと謝れないのか」
「お呼び立てして申し訳ございません」
「俺も見たかったからいいけど」
 許すことにして、目の前の美術館に向かった。
「タバコ屋のおばあちゃんにチケット貰ったんだ」
「只より高い物はないか」

 平日だからじっくり鑑賞できて良かった。
「芸術は必要だね」
 しみじみつぶやいて美登利は帽子をしっかり被り直す。
「帰りますか」
「もう?」
「だって、人が多くて。夏休み、何がしたいか考えといてね」
 そんなの決まってる。ずっと一緒にいたい。柔らかい腕に包まれて、いつまでも胸の鼓動を聞いていたい。ずっと、ずっと。

「じゃあね」
 手を振って別れ、美登利は心して駅の雑踏に向かう。
 乗り換えを経て地元に向かう路線の電車の中で、ようやく息をつく。
 疲れた。自宅のリビングのソファに早く寝そべりたい。そして映画を観るのだ、文化的な一日にふさわしく。
 頭の中をジャズの旋律が流れる。

 あなたが信じてくれるなら、見せかけなんかで終わらないのに――。
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