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第六話 紙の月

6-4.ペーパームーン

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「夏休みのレポートにしようと思って。映画とか歌も関連してるからおもしろそう」
「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーンね、歌詞が良いよね」
「どんなの?」
「ジャズの明るい曲調でね、あなたが信じてくれるなら紙のお月様も本当になる、みたいな」
「ロマンチック」
「ねえ、お月様っておもしろいね。かなわないことの象徴だったり、こうやって希望的な意味に使われたり。映画はもう見た?」
「今度DVD借りに行く」
「うちにあるかも。お父さんにきいてみる」
「ほんと?」



 食事を終え今日子と和美が帰っていった後、美登利は拾ってきたガラス石を空き瓶に入れて水に沈めた。
「こうすると透明になるでしょ」
 カウンターに頬を寄せて横から瓶を覗き込む。
「お手軽インテリアだね。たくさん見つけたからテーブルにも置こう」
 こんな石ころを拾うことしかできない。
 眉を曇らせる正人に考えを読んだように美登利は言う。
「何もいらないって言ったでしょう」
 心をくれたから、もう何もいらない。

「あっちーな。やっと解放されたぜ」
 シャツの襟元を引っ張りながら宮前仁が飛び込んでくる。
「豪華ランチに行ってきたんでしょ」
「よくわからんおっさん連中に囲まれて食った気なんかするもんか。タクマさん、なんかがっつりしたの下さい」
「おうよ」

「村上さんいないの? チェス教えてもらおうと思ったのに」
 ピクっと美登利の肩が震える。
「おふくろさんが入院したんだよ」
「……ああ」
 いちばん奥のカウンター席に座りながら宮前は男らしい眉をしかめる。
「暑さにやられて毎年こうだが、いよいよかもしれんそうだ」

 言葉をなくしている宮前を一瞥して美登利が囁く。
「うちらってこういうとき駄目だよね。恵まれてるから」
「でも……気の毒に思うのは悪いことじゃないだろ?」
 率直に述べる宮前に美登利は微笑む。
「あんたってたまーに良いこと言うよね」




 二日後、美登利は城山苗子理事長に頼まれて、達彦の母親の見舞いについていった。以前にもましてやせ細った面差しに胸が痛くなる。

 ――病気すると手がやつれんだよ。

 達彦が言っていたのを思い出して病人の手を取る。針金みたいで今にも折れてしまいそう。
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