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第六話 紙の月

6-3.ガラス石

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 昨日の会話を思い出して彼女に訊いてみる。
「おれが有名大学合格したら嬉しい?」
「そりゃ、学校の宣伝になるし……」
 言った後から美登利は顔をしかめた。
「こういうことはもう考えないことにしたんだった」
 茶色く変色しているペットボトルをごみ袋に入れながら言う。

「自分でちゃんと考えて目的意識を持つことが大事だよ」
「なんか今頃焦ってきた。五月の連休から先輩が言ってくれてたのに」
「大丈夫、まだ間に合うよ」
「夏休み、すぐに実家戻ろうかな」
「そうだよ。ご両親ともよく相談してね」

 作業の後、水を貰って飲んだ。すぐに帰るのかと思ったが美登利は正人を波打ち際に誘った。
 ここは砂利の海岸で、拓己の田舎の入り江の浜とは趣がまるで違う。
 美登利は波打ち際から少し離れて砂利を掘り出す。
「何か探してるの?」
「うん。見て」
 色のついた石ころに見えた。よく見ると石に比べて透明度があって曇りガラスみたいだ。

「ガラス石だよ。シーグラスって言った方がかっこいいかな、でもうちらはガラス石って言ってる」
「元はガラス?」
「そう、波に揉まれてこうなるんだって」
「ふうん」
 正人も砂利を掘ってみる。わりとすぐに見つかる。しばらく黙々とふたりで集めた。

「おれ、こういう地味な作業が向いてるかもっていつも思う」
「池崎くんはこういうとき、無心になるのでしょう」
 くすりと笑った気配。
「私は違う。いろんなことを考えちゃう」
 サンバイザーの影で表情がよくわからない。

 急に突風が吹いた。美登利はとっさにつばを手にもって飛ばされそうになるのを押えた。
「風が強くなってきたね。行こうか!」
 荒くなった波音に負けないように叫ぶ彼女の手を握る。
 察した美登利は少し迷ったような顔をしたけれど、サンバイザーを目隠しにしてそっとキスをしてくれた。




「おかえりなさーい」
 ロータスに行くと坂野今日子と船岡和美が来ていた。
「タクマ、ご飯作って」
「へいへい」

 和美がテーブルいっぱいに広げている写真を見て美登利が笑った。
「それ、みんなペーパームーン?」
「そうなんだよ、昔昔アメリカで流行ったんだってね」
 古い白黒写真のコピーを集めたもの。はりぼての三日月に座って、恋人同士や家族や女性たちがポーズを取っている。
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