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第四話 幼き約束

4-4.どこかの誰か

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 スタートの合図が上るまで各々ルートマップの確認をする。
 五つのコースの中からルートをひとつ選んでポイントでヒントを集め、最後に示された場所に行ってパスワードを確認してゴールする、というのが大会の趣旨だ。

 各コースによって商店からポイントで提供されるグッズや飲食に違いがあって、それを目当てにコースを決めるのが普通であるらしいが、
「ボクは赤、とにかく赤だ」
「わたしは青がいい」
 幼い二人はルート表示の配色で決めてしまう。
「まあ、なんでもいいけど」

 合図と同時に参加者がイベント広場を出発する。子どもたちふたりは先を争うようにそれぞれの方向に走り出す。
「ちょと待てって、危ない」
「じゃあね、池崎くん」
 美登利は自分も軽快に走り出して少年の後を追う。
 負けるもんか、と正人も少女の後に続いた。




 対岸が賑やかだと思ったら何かイベントがあるらしい。うるさいなと思いながら新聞を抱えて河原道を歩く。
 橋を渡って反対側のたもとまでくると、遊歩道を走っている女性と少年の後ろ姿が見えた。ベンチのある場所で立ち止まり隣に置いてある謎のオブジェを見回している。

 親子だろうか、最近のママさんはスタイルがいい、と思わず二度見して気がついた。
 異様に姿勢の良い立ち姿。あの子しかいないではないか。

 オブジェをさんざん見まわした後、何か気づいた様子で彼女がベンチの方に屈みこんだ。サンバイザーを取って少年に預け、手と膝をついてベンチの下を覗き込む。
 なんて良い眺め。じろじろ体の線を見ていたら、サンバイザーを持った少年が近づいてきた。
「おじさん、なに? 見ないでよ」
 なんつった今。舌打ちしそうになっていたら、彼女が声をあげた。
「あったよ、『堀』だって」

 そこで達彦に気づいて目を細める。
「どうりで……。村上さんでしたか」
 虫けらを見るような目つき。視線に気づいていたらしい。
「おねえさん、この人変態だよ。気をつけて」
「知ってる」
 美登利は少年からサンバイザーを受け取って被り直す。

「何やってるの?」
「ウォークラリーですよ」
「おねえさん早く行こう。ヒントはあと一個だよ」
「はいはい」
「待てって」

 行ってしまおうするのを引き留めて低く吐き出す。
「なんだ、あのガキ。冷めた眼といい、口振りといい、どこかの誰かを思い出すんだが」
「そうですか?」
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