その場限りの恋人

奈月沙耶

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二回目

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 二度目は成人式の後だった。

 格式ばった式の後、ホールの外で同じ高校だった仲良しの子と近くのファミレスに行こうと話していたら、声をかけられた。
「池田は行かないの?」
 何の前振りもなく、五年ぶりに顔を合わせたっていうのに、空白の時間なんてなかったみたいに、内藤くんが言うから。
「何のこと?」
 私も、自然に言葉を返してしまっていた。
「夜、集まって飲みに行こうって。来ないの?」
 私は友達と顔を合わせてから首を振った。
「行かない」
「そっか。まあ、気が向いたら来いよ」
「そうだね」
 その場ではそれだけだった。

 何日か後になって、電話がかかって来た。寝る前にレポートに使う資料を読んでしまおうと眠い目をこすって机に向かっていた私のところに、母親がにやにやしながら電話の子機を持って来た。
「男の子からだよ」
 予感があった。だから私は落ち着いて電話を耳に当てた。
「もしもし」
『内藤だけど』
 うん、わかってたよ。
 にやにや笑いを深くする母親の視線を避けて、私は彼とその週末映画に行く約束をした。



 待ち合わせぎりぎりに映画館前に着いた私を、先に来た内藤くんはエントランスの柱にもたれて待っていた。
「お待たせしました」
「うん」

 映画に行こうと言い出したのは彼のくせに、特に見たい映画はないという。それは私も同じだったから、上映時間がすぐの当時とても話題になっていたアニメ映画を観た。
 内容なんか覚えていない。面白かったかどうかも。その後入った喫茶店で、私たちは映画の話なんか一切しないで、お互いの近況を教え合った。

 内藤くんはクルマが好きでチームに入って週末は峠に行って走っているのだと言った。時々パトカーと鬼ごっこになるのだと。
 私には縁のない世界すぎて想像もつかなかったけど、楽しそうに話す彼の顎の辺りをじっと見ていた。気が付いて内藤くんは自分の顎を撫で、髭が濃くて困ってるんだ、一日二回剃らなきゃならない、とやっぱり楽しそうに話していた。

 この人はこんなにしゃべる人だったかな。
 コーヒーカップを傾けながら私は不思議に思った。表情にいくら面影が残っていても、少年の頃の内藤くんとはあまりに違ってしまっていて。
 だけどそんなのは私だって同じだったに違いない。女子高から女子大に進んでしまい男の子にあまり免疫がないとはいえ、バイト先では男性と接するし合コンにだって行く。内向的だった中学時代と比べたら、ずっとずっと人づきあいが上手くなった。
 私も内藤くんもあの頃とは違う。

 思い出話はいっさいしなかった。身の周りの取り留めのない事を暗くなるまでしゃべり続けて、私たちは別れた。それっきりだった。
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