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インモラル
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今日も課長は素敵だった。
スーツの上着には埃もついてないしスラックスもピシッとしてる。ワイシャツの襟だってパリパリだ。きっと奥さんがしっかりしてるんだよね。わたしは胸がちくりと痛むのを感じる。
そんな課長のピシッとした姿が三時の休憩を回るころにはくたびれてきて、きちんとなでつけた髪も乱れ始める。その様子を見つけた瞬間が堪らない。完璧なものが崩れる瞬間ってどうしてこんなにゾクゾクするんだろう。
「お茶、ここに置きますね」
距離が縮まった隙にひげの伸び始めた顎を観察する。もう少し、きっと夜になるころには頬ずりされたらめちゃくちゃ気持ちのいい長さになる。ああ、触りたいなあ。
角ばった顎のラインから下の喉ぼとけが素敵。ボタンをはずして剥き出しにしたい。
「ありがとう」
わたしが体を引くと課長の手が湯呑みに伸びる。ごつごつした大人の男性の手。頭をなでなでされたいなあ。うっとり見つめていると課長が顔を上げる。わたしは怯まず目線を合わせてにこりとする。しっかり七秒見つめ合い、それからお盆を抱きしめて課長の席を離れた。
給湯室で片付けをしていたら、同期のナントカって男の子がやって来た。
「今日、定時であがれるだろ? メシ行かない?」
「行かない」
「おごってやるから」
「行かない」
「一回くらいいいだろう」
「うざい」
同世代のお子様になんか興味ないんだよ。わからないかな。
「課長に誘われたら行くのかよ?」
うっわ、ドン引き。何言ってんの。
「あんなおっさんどこがいいんだよ? くたびれた中年で昇進だって遅いじゃないか」
こいつ何にもわかってない。これだからお子ちゃまは。
「付き合ったりしたら不倫だぞ。あんな枯れすすきにそんな度胸あるわけないだろ」
わかってないなあ。こんなお子ちゃま、相手にするだけ無駄。わたしは一切無視して業務に戻った。
定時の間際になってキャビネットにファイルを片付けているわたしのところに課長が近寄ってくる。
「急ぎの回答依頼が来てさ。時間過ぎちゃうけど頼める?」
「はい」
喜んで。
就業のチャイムが鳴ってみんながぞろぞろ引き上げていく中でひとりで残って仕事をする。パソコンに向かいながらこの後のことを想像してしまい、自然と顔がにやけて困ってしまう。
メールを送信し終えて一息ついていると、課長が缶コーヒーを持って来てくれた。
「もう終わったの? 早いね」
「いいえ」
「頼まれてくれたからお礼にメシに行くか」
ほらね。誘ってくれると思ってた。毎日毎日あれだけ秋波を送っていれば当然だ。課長だって若い女の子が好きに決まってる。
「嬉しいです」
食事の後ごくごくスマートにホテルに連れて行かれた。枯れてなんかない。わかってないよね、お子ちゃまは。
ねっとりとした舌にやさしく口内を犯されると嬉しくてそれだけで体中に熱がこもる。若い子みたいに勢いだけで歯をぶつけられたり噛み切られる心配もない。
素敵素敵。こうやってずっとほわほわしていたい。だけどそういうわけにもいかなくて、段々と触って欲しくて仕方がなくなってくる。我慢できなくなって目に涙が滲んでくる。だからって急いで欲しいわけでもなくて。だって、男の子たちがするみたいにいきなり挿れられたら興醒めだ。もっともっとじっくり味わいたい。
心配するまでもなく、わかりきったことのように順々に性感をたどってもらってわたしは心底ほっとする。ほらね。若い子とは何もかも違う。安心できる。
ぎゅっと体をくっつけてわたしは課長に甘える。思った通り、ひげがくすぐったくて気持ちいい。お父さんみたい。ねえ、もっとなでなでして。
「気持ちいい?」
「うん」
「可愛いね」
嬉しい。大好き。大好き。
お父さんもわたしとこんなふうにくっつきたかったの? お母さんが家出しちゃって寂しかったの? だから一緒にお風呂に入ろうとか一緒に寝ようとか言ったの?
だけどごめんね。わたしはあのとき怖かった。お父さんの部屋の押し入れの奥にあったヘンな漫画を見てしまったことがあったから。それが頭に浮かんでお父さんのことが怖くなっちゃった。
「……」
ぞくりと体が震えて快感が駆け抜ける。軽くイッちゃう。それがわかったのか課長が笑う。
「可愛いね」
また言われて嬉しくて訊いてみる。
「わたしのこと好き?」
「ああ」
わたしも好き。大好き。嫌いなんかじゃなかったのに。こうやってしてあげてたら、お父さんは死んだりしなかったの?
気持ちよくて涙が出てくる。ぎゅってして。もっとして。おねだりすると期待以上に応えてくれる。やっぱりね。お父さんみたいだもの。
ほんとはね、わたしだってお父さんとこうしたかったよ。だって、大好きだったもん。お父さんもわたしが好きだったんだよね。お母さんのことよりわたしが好きだったんだよね。
泣きながらむしゃぶりついて訊いてみる。
「ねえ、愛してる?」
「愛してるよ」
やさしく体を揺すって課長は言う。わたしは広い肩にすがって泣きながら嗤う。
バーカ。見え透いた嘘ついてるんじゃないよ。ケダモノが。
スーツの上着には埃もついてないしスラックスもピシッとしてる。ワイシャツの襟だってパリパリだ。きっと奥さんがしっかりしてるんだよね。わたしは胸がちくりと痛むのを感じる。
そんな課長のピシッとした姿が三時の休憩を回るころにはくたびれてきて、きちんとなでつけた髪も乱れ始める。その様子を見つけた瞬間が堪らない。完璧なものが崩れる瞬間ってどうしてこんなにゾクゾクするんだろう。
「お茶、ここに置きますね」
距離が縮まった隙にひげの伸び始めた顎を観察する。もう少し、きっと夜になるころには頬ずりされたらめちゃくちゃ気持ちのいい長さになる。ああ、触りたいなあ。
角ばった顎のラインから下の喉ぼとけが素敵。ボタンをはずして剥き出しにしたい。
「ありがとう」
わたしが体を引くと課長の手が湯呑みに伸びる。ごつごつした大人の男性の手。頭をなでなでされたいなあ。うっとり見つめていると課長が顔を上げる。わたしは怯まず目線を合わせてにこりとする。しっかり七秒見つめ合い、それからお盆を抱きしめて課長の席を離れた。
給湯室で片付けをしていたら、同期のナントカって男の子がやって来た。
「今日、定時であがれるだろ? メシ行かない?」
「行かない」
「おごってやるから」
「行かない」
「一回くらいいいだろう」
「うざい」
同世代のお子様になんか興味ないんだよ。わからないかな。
「課長に誘われたら行くのかよ?」
うっわ、ドン引き。何言ってんの。
「あんなおっさんどこがいいんだよ? くたびれた中年で昇進だって遅いじゃないか」
こいつ何にもわかってない。これだからお子ちゃまは。
「付き合ったりしたら不倫だぞ。あんな枯れすすきにそんな度胸あるわけないだろ」
わかってないなあ。こんなお子ちゃま、相手にするだけ無駄。わたしは一切無視して業務に戻った。
定時の間際になってキャビネットにファイルを片付けているわたしのところに課長が近寄ってくる。
「急ぎの回答依頼が来てさ。時間過ぎちゃうけど頼める?」
「はい」
喜んで。
就業のチャイムが鳴ってみんながぞろぞろ引き上げていく中でひとりで残って仕事をする。パソコンに向かいながらこの後のことを想像してしまい、自然と顔がにやけて困ってしまう。
メールを送信し終えて一息ついていると、課長が缶コーヒーを持って来てくれた。
「もう終わったの? 早いね」
「いいえ」
「頼まれてくれたからお礼にメシに行くか」
ほらね。誘ってくれると思ってた。毎日毎日あれだけ秋波を送っていれば当然だ。課長だって若い女の子が好きに決まってる。
「嬉しいです」
食事の後ごくごくスマートにホテルに連れて行かれた。枯れてなんかない。わかってないよね、お子ちゃまは。
ねっとりとした舌にやさしく口内を犯されると嬉しくてそれだけで体中に熱がこもる。若い子みたいに勢いだけで歯をぶつけられたり噛み切られる心配もない。
素敵素敵。こうやってずっとほわほわしていたい。だけどそういうわけにもいかなくて、段々と触って欲しくて仕方がなくなってくる。我慢できなくなって目に涙が滲んでくる。だからって急いで欲しいわけでもなくて。だって、男の子たちがするみたいにいきなり挿れられたら興醒めだ。もっともっとじっくり味わいたい。
心配するまでもなく、わかりきったことのように順々に性感をたどってもらってわたしは心底ほっとする。ほらね。若い子とは何もかも違う。安心できる。
ぎゅっと体をくっつけてわたしは課長に甘える。思った通り、ひげがくすぐったくて気持ちいい。お父さんみたい。ねえ、もっとなでなでして。
「気持ちいい?」
「うん」
「可愛いね」
嬉しい。大好き。大好き。
お父さんもわたしとこんなふうにくっつきたかったの? お母さんが家出しちゃって寂しかったの? だから一緒にお風呂に入ろうとか一緒に寝ようとか言ったの?
だけどごめんね。わたしはあのとき怖かった。お父さんの部屋の押し入れの奥にあったヘンな漫画を見てしまったことがあったから。それが頭に浮かんでお父さんのことが怖くなっちゃった。
「……」
ぞくりと体が震えて快感が駆け抜ける。軽くイッちゃう。それがわかったのか課長が笑う。
「可愛いね」
また言われて嬉しくて訊いてみる。
「わたしのこと好き?」
「ああ」
わたしも好き。大好き。嫌いなんかじゃなかったのに。こうやってしてあげてたら、お父さんは死んだりしなかったの?
気持ちよくて涙が出てくる。ぎゅってして。もっとして。おねだりすると期待以上に応えてくれる。やっぱりね。お父さんみたいだもの。
ほんとはね、わたしだってお父さんとこうしたかったよ。だって、大好きだったもん。お父さんもわたしが好きだったんだよね。お母さんのことよりわたしが好きだったんだよね。
泣きながらむしゃぶりついて訊いてみる。
「ねえ、愛してる?」
「愛してるよ」
やさしく体を揺すって課長は言う。わたしは広い肩にすがって泣きながら嗤う。
バーカ。見え透いた嘘ついてるんじゃないよ。ケダモノが。
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