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最終話
ぼくの可愛い人だから(5)
しおりを挟む少しずつ協力しあって準備を進めた〈ひまわり〉のクリスマス会は大盛況だった。サプライズゲストで登場したほっそりした体型の白いひげのサンタクロースはあからさまに丸山園長の仮装だったが誰も何も突っ込まなかった。毎年暗黙の了解なのだろう。
正月には茅子を家に誘ってみたけれど、まだ無理だと謝られた。それはそうだと思いもしたし言質は貰ってあるのだから焦りはしない。次はお盆に誘ってみよう。
俊は県立大学に進学が決まり、二十歳まで里親の星野家ですごすことになった。茅子と渉が結婚の約束をしたことは聞いているはずだし、渉のことを黙認するような態度を示すようになった俊だが、それでも時々思い出したように姉と一緒に暮らすのだという約束を口にするし、刺々しい態度に戻ったりもする。彼とはまだまだ先の長い闘いになりそうだ。
真美は相変わらず部活に励んでいるし、父親は黙々と自宅と職場を往復し、たまに釣りに出かける。母親は変わらず不機嫌そうに(実際機嫌が悪いわけではない)帳簿をつけたり料理をしたりしている。高山家は相変わらず、変化といえば毎週日曜日に渉が父親の工場に通うようになったくらいだ。
桜前線の北上を待たずに三月頭、望月とかおるの結婚披露宴が盛大に執り行われた。渉にとっては初めての経験だからこの表現が合っているかどうかは比較材料がないから正確にはわからない。ただ、望月もかおるも幸せそうだった。
受付係や二次会の幹事役を引き受けていたので式の前後には忙しい思いをしたけれど、その合間を縫って渉は茅子の部屋まで彼女を迎えに行った。これからふたりで二次会に参加するのだ。
「これで大丈夫でしょうか?」
いつぞや街コンに行ったときの紺色のワンピースに同色のフォーマルなボレロを重ねている姿は清楚で愛らしい。
「うん。すっごく可愛い」
つるつるとそんなセリフを吐くのに慣れてしまった感のある渉に対して、茅子は相変わらず恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。
こういうことは慣れてはいかんのだな、と渉は反省する。もちろんいつでも、心からの言葉なのだが。
茅子は鼻の頭に汗をかきながらちらっと渉を見てまた目を伏せる。今日はコンタクトだから茶色の瞳がいつもより大きく見える。
「渉さんはいつもカッコいいですけど、今日はもっと素敵です」
自分で言って、自分で真っ赤になっている。天然て怖い。
渉は手で緩んだ口元を隠しながらもう片方の手に握っていたブーケを彼女に差し出した。
「はい」
「え、これってまさか」
「うん。普通はブーケトスするんだよね。でもかおるが名指しで俺にくれた。茅子ちゃんにって」
「そんな、わたしなんかに」
「もらってあげなきゃかわいそうだよ」
「……そうですね」
茅子はふっと肩の力を抜いて、渉からブーケを受け取った。淡いピンク色やオレンジ色の花々が彼女には似合う。
「じゃ、行こうか」
「はい」
茅子の部屋を出て、手をつないで歩き出す。お互いの歩調に合わせ、ゆっくりと。
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